丁寧かつ慎重に議論を尽くしてほしかった。

 自民党は10日の総務会で、検察官の定年63歳を65歳へ引き上げる検察庁法改正案を了承した。国会審議が紛糾している中での法案提出に慎重論も出たが、最終的には出席者の全会一致で了承した。

 注目したいのは、当初の議論で国家公務員法の解釈を変更して黒川弘務東京高検検事長の定年を延長する閣議決定に関し、「三権分立を脅かす」と異論が出たことだ。

 当然の指摘である。検察庁法は検事総長以外の検察官の定年を63歳と定めている。定年延長を巡っては、政府が1981年に国会で検察官について「今回の(法案に盛り込まれた)定年制は適用されない」と答弁したことが議事録で判明している。

 国会の審議を経て成立した法律に準じれば、黒川氏の定年延長は認められないはずだ。にもかかわらず、安倍晋三政権は国家公務員法の規定を適用して定年延長を決めた。恣意(しい)的で国会を軽視した手法と言わざるを得ない。

 総務会での異論は、国権の最高機関である国会の第1党としての危機感が辛うじて示されたと言えよう。

 首相官邸に近いと言われ、検事総長起用も想定される黒川氏の定年延長について、官邸の人事介入との批判もあった。政府が説明した検察庁法と国家公務員法の関係についても質問が相次いだという。

 ただ「追及」はここまでだった。さらに深掘りした議論を繰り返してこそ、政権の行き過ぎを抑える与党の役割を発揮できたのではないか。

 自民党に強く求めたい。さまざまな法案、政策を決めるに当たっての「自浄能力」を取り戻してほしい。

 党内ではかつて、総裁選で勝った派閥が主流派となる内閣を、反主流派が批判するという構図があった。

 そこには激しい政策論争があり、ときの内閣が行き詰まると反主流派が政権を握る。党内で「疑似政権交代」をしながら、国民の支持をつないできた。

 取って代わったのが「1強」である。小選挙区制の導入で選挙の「顔」となる首相の権力基盤は強まった。野党が多弱から脱却できていないことも相まって、首相官邸が与党より優位に立つ「政高党低」が常態化した。

 政府は検察庁法改正案を、定年延長のための国家公務員法改正案と「束ね法案」として一本化し、国会に提出する方針だ。

 森雅子法相や人事院はこれまで、筋の通らない説明を繰り返してきた。森氏は東京電力福島第1原発事故直後に「検察官は最初に逃げた」と主張して謝罪に追い込まれるなど不安定な答弁が目立つ。

 自民党が改正案を了承した責任は重い。三権分立が損なわれ、法の支配が問われていることを自覚しながら審議に臨む姿勢が求められる。