東日本大震災の津波で児童・教職員計84人が犠牲になった宮城県石巻市大川小を巡る損害賠償請求訴訟で、市と宮城県は仙台高裁判決を不服として上告することを決めた。高裁判決の重要ポイントはもちろん、戦後最悪とされる学校管理下での事故を踏まえた上で審議を尽くしたのか。大きな疑問を残したまま、舞台は最高裁に移る。(大川小事故取材班)

<「市自身が知識活用」>
 市議会は8日の臨時会で市が提出した上告関連議案を賛成16、反対12の賛成多数で可決した。村井嘉浩知事は9日の県議会全員協議会で控訴時同様、市と同調し、専決処分で対応する考えを示した。
 亀山紘市長が示した5項目の上告理由は表の通り。特に、市長が強調した(1)と(2)の2点に着目したい。
 2008年策定の市地域防災計画は「市は、地震により堤防が決壊した場合に(中略)対応する計画が必要」などと記載。高裁は同計画を踏まえ「宮城県沖地震が起きれば堤防が損壊し、周辺が浸水するという知識は市自身が活用していた」と判断した。
 ハザードマップの基となった県の地震被害想定(04年)は、市町村が活用する際の留意点として「調査結果を概略の想定結果と捉え、より詳細な検討が必要」と要請していたが、石巻市はそのまま使っていた。この点も高裁は指摘した。亀山市長は9日、取材に「県が求めていたとしても、石巻市では難しい」との認識を示した。

<判決文誤読の可能性>
 市議会の論戦では、高裁判決を誤解しているとみられるやりとりもあった。市議の一人は「司法判断は東日本大震災をあまりに軽視している」と非難し、上告に賛成した。前日、同様の発言をした亀山市長は別の議員から真意を問われ、「判決は宮城県沖地震の予見可能性を吟味したと理解している」と修正した。
 高裁判決は「大川小校長らが予見すべき対象は東日本大震災ではなく、04年に想定された『宮城県沖地震』(マグニチュード8.0)で生じる津波」と明言。判決文を誤解したままの採決だったとすれば、84人の犠牲者は浮かばれない。
 実質2時間の質疑・討論で発言した市議は6人。議論が尽くされたとは言えないが、13日告示の市議選を控える中で臨時会を開き、討論した点は評価できる。議決機関としての役割を果たせなかった県議会は、議会が再び軽んじられた点を深刻に受け止めるべきだ。
 亀山市長は「国全体の問題として今後の防災の在り方を最高裁で議論し、国に指針を示してほしい」、村井知事は「判例になれば、事前防災の大きな義務が教育現場に課される」などと上告理由を述べた。
 最大被災地の石巻市、宮城県のトップこそ、全国に学校防災の在るべき姿を発信する役目があるはずだ。「子どもたちの命は絶対に守る」-。国任せではない、被災地発の覚悟を発信する機会は再び失われた。