「道路(国道349号)が少し水に漬かるくらいかな」

 台風19号が接近した10月12日。宮城県丸森町の阿武隈川近くで金魚などを飼育販売する佐野周二さん(50)は夜まで川の様子を確認し、午後11時ごろにいったん床に就いた。

 1986年の「8.5豪雨」や98年8月豪雨などの水害を経験した。同町大巻のほぼ対岸に位置する自宅は道路から6、7メートルの高台にある。川の水位と雨の降り方から「今回は大丈夫」と考えた。

 13日午前0時40分ごろ、自宅を出ると道路から約3メートル高い場所にある車庫に水が迫っていた。午前1時半すぎには自宅に水が入り始め、床上60センチまで浸水。2階に避難した。

 「8.5の時も水の上がり方は速かったが、今回ほどではなかった。近所の人たちも『ここまで上がる感じはしなかった』と驚いていた」と話す。

 伊達市梁川町から349号と並行する阿武隈川。丸森町に入ると川幅が狭まり、蛇行を繰り返す。狭窄(きょうさく)に屈曲が加わった独特の景観は「阿武隈渓谷」と称される。狭窄部と前後は急流と緩流が交互に現れる。屈曲部では上流方向に戻る流れも交じり、増水時にあちこちで大きな渦を巻く。

 「だからこの辺は大巻、岡巻とか『巻』の付く地名が多いんだ」と住民らは言う。長く水害と向き合ってきた住民が蓄積した経験則も、今回の台風には通用しなかった。

 佐野さん宅から約1キロ下流の耕野沼地区。349号沿いで物販・飲食店を営む八島哲郎さん(57)、広子さん(57)夫妻も「過去の経験は役に立たなかった」と口をそろえる。

 これまでは上流部で比較的近い伊達市伏黒の水位が目安となった。4メートル(氾濫注意水位)を超えれば「約2時間後に店周辺の道路に水が上がる」と判断してきた。

 10月12日午後7時ごろにインターネットで水位を確認すると「(4メートルの)かなり下だった」。だが道路は午後10時すぎに冠水。13日午前0時ごろには路面より4メートル高い位置にある店内に水が達し、床上約1.6メートルまで浸水した。

 12日午後4時ごろまで目立った変化はなかった伏黒の水位は、13日午前2時に過去最高の6.29メートルを観測。上流の広い範囲で12日夕から午後9時ごろにかけて雨脚が強まり、8.5豪雨などを上回る記録的な雨量となったことが急激な水位上昇を引き起こした。

 阿武隈川はかつて「大曲(おほくま)川」と呼ばれた。「隈」「曲」は蛇行を意味するとされる。名の由来を残す川の姿、地名が伝える脅威。八島さん夫妻も備えを怠ってきたわけではなかった。

 店はもともと349号に面し、度重なる水害に悩まされた。2010年に道路からやや離れた場所に移し、床面を8.5豪雨時の浸水高より高くしていた。「また同じような台風に襲われるかもしれない。これ以上どうしたらいいのか」。夫妻は考えあぐねている。