◎幸せのかたち~福島県楢葉町・古書店主 岡田悠さん

 10畳ほどの店内は年月を重ねた紙やインクの懐かしい匂いに満ちている。「鉄腕アトム」「火の鳥」「サイボーグ009」や往年の人気雑誌「ガロ」などがずらり。世代を超えて人々に読み継がれてきた。
 福島県楢葉町の古書店「岡田書店」。入り口からコの字形に配置された本棚に手塚治虫、藤子不二雄、永井豪、石ノ森章太郎の絶版の漫画本や小説など約1万冊の蔵書が並ぶ。
 店主の岡田悠(ゆたか)さん(39)は「本を求めて訪れる人たちの移ろいに、町が新しい道を歩み始めていることを実感する」と話す。
 古書店は東京電力福島第1原発事故による町の避難指示が解除された2015年9月に開業した。当初は1日1人来るかどうかで疲労の色がにじむ原発関連の作業員ばかり。現場と宿舎の往復の合間、しばし漫画の世界に浸り、本を購入していった。
 古里への帰還が進むにつれ、店を訪れる住民の姿も徐々に増える。今は遠く南相馬市や相馬市などからうわさを聞いてやって来る人もいて、来客は1日10人くらいになった。

 「ずっと探していた本が見つかった」と感謝の言葉に触れ、常連さんや近所の住民と店先で雑談する。この町に腰を据え、本を売り続ける上で何よりの励みになっている。
 岡田さんはいわき市で戦前から続く古書店の3代目だった。原発事故で店を閉め、祖母が暮らしていた楢葉町は避難指示区域になった。
 転々と避難を余儀なくされた祖母は11年7月、いわき市の仮設住宅で体調が急変。自宅に帰ることなく、85歳で息を引き取った。岡田さんの両親や祖母と同居していた親族はいずれも郡山市に住まいを移し、古里を離れた。
 「祖母との思い出が残る楢葉で店を再建したい」。岡田さんは1人、人影が消えた町での再出発を決断した。祖母の自宅は4年間で荒れ果てていた。雨漏りする屋根を直し、床を磨き、本や棚を運び込んだ。

 「自分にできることは古書を売ることだけ。食べること、住むことの手助けはできないけれど、日々を少しだけ楽しく生きることのお手伝いはできる」。復興への歩みが緒に就いたばかりの地に、店を構える意味をかみしめる。
 町を出て生活を再建するため、本を譲りに来る人。帰還に合わせ、避難中に無くなった本を求める人。それぞれの思いや記憶は古書を介して受け継がれる。岡田さんは「本の取引を通じて、町の新しい歴史を紡ぎたい」と前を見据える。(報道部・菅谷仁)

●私の復興度・・・数値化できず

 楢葉町の居住世帯率は58.3%(5月末現在)に回復した。スーパーもできたし、コンビニも原発事故前より多いくらいだが、それは果たして復興なのか。
 多くのものを失い、元の生活に戻ることが難しい人はたくさんいる。原発事故で自分の人生はリセットされた。ゼロから新しい人生を積み上げ、どれだけプラスになったかを考えることが重要ではないかと思う。