東京電力福島第1原発事故で全町避難した福島県大熊町は2023年度、町内で教育活動を再開する。避難先の会津若松市で22年度に義務教育学校へ移行する町の小中3校では、新たな取り組みを一部先行実施している。小規模ながら古里での学びを再び興そうと懸命な現場を追った。
(会津若松支局・玉應雅史)

 「これからは楽しく勉強してほしいなあ、と思います。その勉強の仕方を考えましょう」

 会津若松市内にある大熊町熊町小、大野小の5、6年生5人が受ける算数の授業。町教委主幹の増子啓伸指導主事は9月上旬、自ら教壇に立った。新たな学習法を児童や教員に説明するためだ。その学習法を増子指導主事は「ごちゃ混ぜラーニング」と名付けた。

 児童の手元には教科書とドリルのほか、タブレット端末が1人1台。その日に何を使って勉強するかは自分で決め、分からないことは聞いても教えてもいいし、好きな場所で勉強して構わない。目標を自ら決めて自主的に学び、教員はそれを「支援」する。

 人工知能(AI)を活用したデジタル教材のタブレットは理解に応じて問題を提示し、一人一人の習熟度を判断して学びをサポートする。学年ごと教室で児童生徒が黒板に向かい、教員が「指導」する従来の一斉授業と大きく異なる。

 教材は東京の学習コンテンツ制作会社が開発。教員は児童生徒の学習進度をデータで管理し、理解を「支援」するのが役目だ。

 同社によると既に導入実績があり、経済産業省との実証事業では授業時間の短縮など学習効率の向上が期待できるという。

 増子指導主事は「一斉授業で同じ内容、同じ進度の授業から児童生徒それぞれの興味関心、特性に応じた学びのシステムに転換していく」と強調する。

 同様に市内に避難する大熊中を含め、町の小中学校で学ぶ児童生徒は現在計12人。原発事故から間もなく10年。避難当初の約600人から大きく減った。親の仕事の関係による市外への転出や、避難先の学校に入学するケースが増えた。

 3年後も少人数が想定される中、町教委は新たな教科学習のキーワードを「個別最適化」と定める。学力を伸ばしたい子、基礎固めが必要な子。多様な人との学び合い、多様な学び方に対応し思考力、判断力、表現力を育てる。「ごちゃ混ぜ」の真意はそこにある。

 最先端のAIを使うとはいえ、大熊らしい学びの実現に王道はない。

 「問題の解答を間違えればAIは見直すポイントを指摘してくれる。ただ、子どもたちが自分で見直して理解したかどうか、結果だけで見極めることはできるのか」。6年担当の陽田恵美講師はそう感じている。

 大熊らしい個別最適化の学習の在り方の構築は手探りだ。開校までに確立するため町教委、現場の教員は戸惑いや不安を抱えながら試行錯誤する。

 算数の授業の最後。「どうでしたか? 今日の勉強は」と増子指導主事は問い掛けた。

 「楽しかった」。5人全員が笑顔で答えた。