福島県大熊町内で2023年度の再開を目指す町の義務教育学校では、人工知能(AI)を活用した「個別最適化の教科学習」とともに「探究学習」を柱とする。町教委は「未来デザインの時間」と位置付け、実質的な授業を本年度から始めている。

 会津若松市に避難中の熊町・大野両小体育館の壁に大きなキャンバスが張られた。10月上旬、全校児童9人が元気な歌声を響かせながら、鳥や花、家など思いのままに描いた。

 絵のタイトルは「大熊町の9羽の鳥たち」。目標の太陽に向かって9人が羽ばたく姿を表現した。支援しているのは版画家の蟹江杏さん。7月から5回目の授業となったこの日、9人は蟹江さんの知人でバリトン歌手関口直仁さんが即興で演奏するピアノの音に乗って、軽快に筆を走らせた。

 5年の馬場結梨花さんは「緑がたくさんあって、にぎやかな町をイメージして描いた。皆が気持ちを込めて描いた感じがする」と笑顔を見せた。

 9人の他の絵画をはじめ将来の夢をつづった作文や蟹江さんによる子どもたちへのインタビューなど、本年度の成果は本にまとめる。将来は出版・販売したいと町教委は練る。

 本作りは東京電力福島第1原発事故前、町が取り組んで来た教育の伝統がベースにある。読書活動が盛んで、調べる学習、ふるさと教育、放射線教育などを引き継ぎ、昇華させた形だ。

 AIを使った最新の教科学習と、伝統を基盤にした探究学習。町教委は新たな学校づくりの理念に「温故創新」を掲げる。伝統と革新で育む能力を「デザイン力」と位置付けた。

 原発事故に加え人口減少など社会の変化が著しい時代を生き抜く課題解決能力であり、復興に必要な人材の資質でもある。未来デザインの時間では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にある気候変動などの環境、人権といった17項目の内容に沿った学習にも来年1月から取り組む計画だ。

 こうしたユニークな教育方針の背景には、少人数での開校が避けられないという現実がある。きめ細かな教育で小規模校の利点を生かす一方で、多人数の集団の中で身に付ける社会性などをどう育むか。不安視する向きも少なくない。

 それを補う役目が、蟹江さんのような外部の「応援団」。阿部裕美校長は「少人数だから不利ということはない。外の人との結び付きが強くなり、社会性は養われる」と強調する。

 町教委は蟹江さんと協定を結び、蟹江さんを介して今後も芸術家、専門家を講師に招く。SDGsについても県内外の学校との連携を模索する。

 町の新たな教育の検討に携わっている会津大短大部の桜井直輝講師(教育行財政学)は「少子高齢化の時代に大熊の取り組みは地方のスタンダードとなる。学校だけで全ての教育機能を担える時代ではない。外部とのネットワークを築ければ強靱(きょうじん)になる」と指摘する。