「会津若松市に残る児童生徒がいる間は、今の学校を残してほしい」

 福島県大熊町が2023年度、町内で始動させる義務教育学校は特色ある教育内容の検討が進む。一方で会津若松市に避難中の熊町、大野両小の保護者の胸の内は、期待とともに「取り残されないか」という不安が交錯する。

 町教委は町内での教育活動再開に先立ち22年度、会津若松市に避難する現在の小中計3校を義務教育学校に移行し同市で開校。町内の新校舎に23年度、移転する形を取る。3校は22年度に休校。23年度からは会津若松に大熊の学校はなくなることになる。

 休校方針を保護者が正式に知らされたのは8月。町とPTAの懇談会だった。話し合いは平行線をたどる。

 「避難当初は会津若松に大熊の子がいる限り学校は残すと聞いた」「大熊の学校は安心でき、通わせたいがすぐに町に戻れない」

 「会津若松を分校にするとしても、教員確保や本校と同じ教育水準維持など課題がある。学校を二つ運営するのは難しい」

 町教委によると、休校は町教委の判断で可能。義務教育学校の構想は6月に固まった。休校は町議会、町総合教育会議に説明していたが、議決事項でないため大きな議論にはならなかった。結果、情報が保護者に十分伝わらなかった。

 避難生活が長引く間に学校の将来像は微妙に変化した。認識の溝を埋める話し合いが続く中、新たな課題が浮上した。「町へ戻って学校に通わせたいが、住む家を確保できない」

 避難指示が解除され、新校舎を建設する大川原地区で町は災害公営住宅など計132戸を当初計画通り整備した。現在十数戸の空きはあるが制度上、3年後の入居予約はできない。

 10月の懇談会で町生活支援課の橋本浩江課長は「最大限配慮し、検討したい」と応じた。町は子育て世代向けの住宅確保にようやく乗り出したが、認識不足だった側面は否めない。

 PTAの馬場由佳子会長は「大熊の学校があるから会津若松に避難した家庭も多い。新しい学校に反対ではない。学ばせたいが、戻る時期や条件、事情はそれぞれ異なる」と訴え「戻るにしても判断材料が足りない」と言う。

 住まいや仕事、インフラ復旧状況、放射線の影響の現状、進学時期…。保護者の判断基準は多様だ。

 幼稚園を含めた町の児童生徒は19年度で1463人と原発事故前とほぼ変わらない。しかし町の学校に通う子どもは年々減り、今は避難先の市町村の学校に通う区域外就学が99%以上を占める。

 町教委は町の学校で学ばせたい意向を探るため、全子育て世帯に調査を今後実施する。区域外就学世帯にとっても町に求める判断材料は同じだ。

 今年は新型コロナウイルスの影響で、全町民対象の町主催の町政懇談会が中止になった。保護者の情報不足の訴えは、帰還を慎重に検討する町民全体の縮図にも見える。木村政文教育長は「繰り返しでも丁寧に説明したい」と話す。