東京電力福島第1原発事故で全域避難が5年3カ月続いた福島県葛尾村で、避難解除後に生産が始まったコチョウランが行き場を失っている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、贈答の需要が激減した。生産者は大半の花を廃棄しながら、日常に祝い事が戻るのを待ち望む。

 本来なら、白い大輪の鉢がビニールハウス内の一面に並ぶはずだった。半年かけて成長した花は切り落とされ、栽培施設の入り口近くに積まれている。

 「『希望』を意味する花を自ら切る。痛恨の極みとしか言いようがない」。生産者の杉下博澄さん(39)が声を振り絞るように話した。

 コチョウラン栽培は、地元農家らが設立した農業法人「かつらお胡蝶蘭(こちょうらん)合同会社」が2018年1月に始めた。風評被害が懸念される食物に代わるものとしてコチョウランに着目。高級花卉(かき)として収益性が高く、雇用を生む事業に発展すると期待した。

 東北では同様の事業規模での生産例がなく、「福島から東北に品質の良いコチョウランを届けたい」との思いもあった。

 主力は復興の願いを込めた銘柄「ホープホワイト」。2年余りで首都圏や仙台、盛岡など11市場に出荷先が広がった。日本一の産地を目指し、本年度は苗の仕入れを増やす計画を立てていた。

 コロナ禍は最大需要期の3、4月を襲った。取引価格暴落を受け、出荷量を月4000株から500株程度に絞った。残る大部分は花を切り、育て直して別時期の商品化を図る。苗の仕入れは当面やめ、地元雇用の13人を6月末まで休ませている。

 試行錯誤を経て迎えた3年目。杉下さんは「品質が徐々に向上し、事業がようやく軌道に乗るという時だった。本当に最悪なタイミング」と語る。

 緊急事態宣言は全国で解除されたが、出荷時期となる半年先の需要を予測するのは容易ではない。

 「『おめでとう』と言って花を贈る空気がいつ戻るかは全く分からない」と杉下さん。「まずは会社を存続させる。仕切り直し、しっかり結果を出せるようにしたい」と決意を語った。