東日本大震災では、最大震度7の激震が東北を襲った。津波被害を受けなかった内陸部でも、揺れによる建物の損壊、天井や照明の落下などで、多くの命が奪われた。地震発生直後の危機を回避するとともに、沿岸部では津波避難行動にも影響する「揺れ」への備えを考える。(「いのちと地域を守る」取材班)

◎10人、非構造材の犠牲

 震災では、天井や照明、配管など建物の骨組みに関係ない「非構造材」の落下が相次ぎ、人命を奪う凶器になった。

 2011年3月11日午後、いわき市の「いわき産業創造館」ホールで、相続をテーマにした講演会が開かれていた。福島県行政書士会いわき支部の主催。用意した200人分のいすとテーブルは、お年寄りで埋まった。

 講演が半ばに差し掛かった時だった。突然、建物全体が大きく揺さぶられた。ガシャン、ガシャン。天井の照明や機材が激しくぶつかる音が響く。お年寄りたちは机の下に入り、おびえた。

 不意に、大きな塊が落ちた。2メートル四方ほどの大きさがある複数の照明だった。天井から延びたコードや鎖につられ、床の近くで宙づりになった。

 揺れが少し収まると、みんな照明をよけながら、はいつくばってホールの外へと急いだ。

 「まだ一人、中にいます」。誰かが叫んだ。当時副支部長の小泉誠さん(57)はホールを見回した。ぶら下がった照明の脇で、女性がうなだれるような格好で床に座りこんでいた。

 女性は病院に運ばれたたが、同日、息を引き取った。落下した照明が頭を直撃したことによる出血性ショックだった。照明は鉄製で、1基300キロもあった。いわきは震度6弱を観測。強度不足の部材が使用されていたとして、いわき中央署は震災後、施工会社の担当者3人を業務上過失致死容疑で書類送検した。

 河北新報社の調べで、非構造材の落下による死者は全国で少なくとも10人で、東北はいわき市の女性を含めて4人。宮城県利府町でイオン利府ショッピングセンターの天井が落下して男児が亡くなった。白河市では屋根瓦が落ち、相馬市のイオン相馬店では壁が倒れ、それぞれ女性が死亡した。

 震度5強を観測した大崎市三本木。市三本木総合支所で、地域振興課係長の鈴木潔さん(52)は目の前の光景に絶句した。

 20メートルの高さがあるロビーの吹き抜け部分から、石こうボードが次々と落下した。床にたたきつけられると、ドサッ、バサッという音とともに砕け散った。崩れた石こうは、天井部分の約200平方メートルに及び、重さは計3トン近くに達した。「来庁者が下にいたら大変なことになっていた」と鈴木さんは振り返る。

 国土交通省によると、落下被害報告は全国で2000件、負傷者は70人を超える。仙台市内のせんだいメディアテーク、太白区文化センター「楽楽楽ホール」のように、大規模集客施設が目立つ。条件が違えば、大惨事の危険性があった。

◎改善策、徹底に課題/手続き・時間、回復を優先

 地震による非構造材の落下をめぐっては、最大震度6弱を観測した2005年の8.16宮城地震でも、仙台市泉区のスポパーク松森屋内プールで天井が崩落し、30人以上が重軽傷を負った。国は自治体に非構造材の安全対策を通知したが、強制力がないため抜本的な対策は進まず、震災で被害が繰り返された。

 震災後も改善の動きは限定的だ。日本建築学会の調査では、落下被害のあった公共施設や商業施設などの4割が、震災前の状態への復旧を選択している。

 建築学会はその背景について「公共施設は法制度や財政措置が原状復旧を前提にしている。民間も、手続きが少なく、短時間で事業を再開できる原状回復を優先する傾向にある」と解説する。

 思い切った安全策を選択した施設もある。最大震度6弱を記録した仙台市青葉区のJR仙台駅。揺れの衝撃で、新幹線ホームの天井板が300メートルにわたって落下した。利用客が比較的少ない時間帯だったため、人的被害はなかった。

 同駅は震災後、落下しなかった部分も含めてホームの天井板そのものを取り払った。現在、ホームの真上は屋根裏の骨組みがむき出しになっている。JR東日本仙台支社は「天井はもともとデザインの観点で設置していた。余震も続く中で、危険な状態のままにできないと判断した」と説明する。

 つり天井を撤去すれば落下物の危険性がなくなるため、学校の地震対策に取り組む文部科学省も注目する。同省の調査によると、震災で非構造材が落下した公立小中学校の被害件数は全国で3000件以上に達した。

 体育館をはじめ、校舎は災害発生時、避難所になる。同省は昨年9月、公立学校のつり天井について、撤去も含めた安全対策を講じるよう自治体に通知した。

 落下しても危険の少ない材質を天井に採用したケースもある。東京都江東区の日本科学未来館では、震災で落下した玄関ホールの天井を、石こうボードから軽量の「膜天井」に替えた。

 グラスファイバーを樹脂でコーティングした布状の材質で、厚さは0.3ミリ。1平方メートル当たりの重さは、石こうボードの40分の1の380グラムで、仮に落下して人に当たっても衝撃は少ない。

 価格は石こうより割高で工期も長い。工事費用は膨らむが、栄井隆典運営事業部長は「元に戻しては同じ被害が繰り返されるだけ。新しい復旧が必要と考えた」という。

 膜天井の活用を助言したのは、東大生産技術研究所の川口健一教授(空間構造工学)だった。1995年の阪神大震災の調査で大規模集客施設の天井落下を確認。非構造材のリスクを指摘してきたが、対策は耐震補強の二の次になってきた。

 国土交通省は対策の義務化を進める方針だが、対象は14年4月以降に建てられた施設で、既存の公共施設、大規模集客施設には適用されない。

 川口教授は「行政や企業は今こそ、非構造材から命を守る方法を取るべきだ」と訴える。

[英訳] http://www.kahoku.co.jp/special/spe1151/20150207_07.html