沿岸部のコンビニエンスストアの従業員は、東日本大震災の本震が収まった後、津波の襲来に気付かないまま、買い物客に対応した。

 強い揺れに店外に飛び出した。岩手県大槌町のコンビニ「Yショップマルタニ」のパート田中千久美さん(46)は、居合わせた女子中学生たちとおびえていた。

 店内の床には、割れた酒瓶などが散乱していた。危険を感じたが、買い物客が訪れたため、レジに入った。パンやおにぎり、懐中電灯の電池などを買い求める人たちがやって来た。

 停電で店内は薄暗く、レジも動かない。近くにあったチラシの裏に商品名を記入し、電卓で料金を計算した。余震のたびに怖くなり、店外に逃げたこともあった。

 店内にいた時だ。「ちくみちゃーん、津波が来たぞ!」。開けっ放しの出入り口で、近所の男性が叫んだ。「津波? はあ? 何?」。店の駐車場から東側の市街地方面を見た。約400メートル先から、壊れた建物の塊が迫ってきた。

 慌てて、店の裏口から坂道を駆け上がった。直後、がれきは店に押し寄せ、火が燃え上がった。

 大津波警報が出ていたようだったが、町の防災無線はちゃんと聞こえなかった。「叫ばれなかったら、逃げなかった。地震の後も、お客さんが来たので対応しなければいけないと思った」。田中さんは当時を振り返る。

 福島県境に近い宮城県山元町のローソン亘理山元店でも、オーナーの遊佐宗之さん(47)がぎりぎりまで接客をしていた。

 「津波が来たぞ!」。買い物を済ませて店を出たばかりの客が、血相を変えて戻ってきた。店外に出て、海の方向に目を凝らした。店から約300メートル東で砂煙が立ち上がり、高さ10メートルほどの白波が見えた。

 「2階に上がって!」。とっさに、店内にいた4、5人の客を誘導した。転んだ女性が、落とした購入商品を拾おうとした。「拾ってないで上がれ!」。思わず、女性客に怒鳴り声を上げてしまった。レジや店を施錠する余裕はなかった。

 津波は海から約1.5キロ離れた店まで到達し、約50センチ浸水した。遊佐さんは「防災無線は聞こえず、店内にラジオもない。津波が来るとは思ってなかった」と話す。

 コンビニ大手5社によると、震災の津波で全壊、流失するなどして少なくとも計約60店が使用不能となった。犠牲になった店のオーナー、店長、従業員は計32人。店外で被災した人も含まれ、接客中だったか否かの詳細は分からない。

◎警報機広がる配備/客への対応尽きぬ悩み

 買い物客と従業員の命をどう守っていくか。小売店業界は、東日本大震災を教訓にさまざまな取り組みを始めた。

 パーワン、パーワン。店内の地震津波警報機から、けたたましい警戒音が鳴り響いた。直後、強い横揺れが襲った。

 2012年12月7日午後5時18分、東北で最大震度5弱の地震が起きた。「またか」。気仙沼市のローソン気仙沼東八幡前店店長の新谷光秋さん(39)は身構えた。店は震災の津波で数十センチ浸水した。

 「宮城県に津波警報発令。津波到達予想時刻は…」。ラジオ機能のある警報機は、大音量で災害情報を伝えていた。ほどなくして、本社から避難指示の電話が入った。

 「店を閉めます。避難してください」。新谷さんはほかの従業員2人とともに、店内にいた5、6人の客に呼び掛けた。

 食料などを買いに来る客には「津波が来るかもしれない」と事情を説明。レジから現金を出し、施錠して店外に出た。

 震災を教訓に、コンビニ各社は店の災害対応を強化した。

 ローソンは、東北の約80店を津波リスク対策店に選定し、地震津波警報機を配備した。阪神大震災、東日本大震災の発生日などに防災訓練を実施。閉店の手順や避難場所を確認する。同社の広報担当者は「従業員の身を守ることが、お客さまや地域の人々を守ることにもなる」と強調する。

 サークルKサンクスは、全店に警報勧告システムを導入。地域に大雨、洪水など10種類の警報が発令されると、レジ画面に表示して従業員や客に知らせる。特に大津波警報と土砂災害警戒情報は警告音を鳴らし、接客中でも画面を強制的に切り替えて音声案内する。同社の広報担当者は「お客さまにも情報共有してもらい、速やかな行動につなげたい」と話す。

 コンビニ以外にも動きが広がる。東北5県でドラッグストアを展開する薬王堂(岩手県矢巾町)は、震災で従業員9人が犠牲になった。震災後、災害時行動マニュアルを見直し、津波が予想される場合は避難の徹底を明記。避難路の地図も全163店舗に掲示した。

 設備が整う一方で、現場は避難誘導の難しさに直面している。

 昨年12月7日の地震で、ローソン気仙沼東八幡前店が一時閉店後、駐車場で待つ人々がいた。見慣れない人の姿もあった。店長の新谷さんは駐車場に止めた車の中にいた。「お客さんを置いて逃げられない」とジレンマを口にする。

 岩手県石油商業組合大船渡支部は、市内の各給油所が店舗を閉鎖する際、津波警報や津波注意報の発令を知らせる共通の看板を置くことを検討している。

 給油所は幹線道路沿いなどに立地し、人目に付きやすい。支部長の新沼丞(じょう)さん(52)は「乗車中は揺れに気付かないこともある。運転手にも瞬時に伝え、避難行動につなげたい」と話している。

[英訳] http://www.kahoku.co.jp/special/spe1151/20150309_05.html