岩手、宮城両県境の北上山地が有力候補地の超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」を巡り、今年は構想実現の鍵を握る二つの局面がある。今月には国内、5月には欧州で、それぞれ科学技術研究の方向性に関する見解が公表される。誘致に向け前進する可能性は残されており、関係者が注視する。(東京支社・山形聡子)

 国内の議論は日本学術会議が1月中に公表予定のマスタープラン。欧州での議論は次期欧州素粒子物理戦略で、5月に策定される見通し。

 2019年3月、文部科学省はILC計画に関し「誘致の表明には至らない」と発表。一方で「関心を持って国際的な意見交換を継続する」と指摘した。萩生田光一文部科学相は「それぞれの議論の推移を見守る」と語り、政府の誘致判断を左右する材料となりそうだ。

 学術会議のマスタープランは科学的に意義が高い大型施設や大規模研究計画を示すリスト。国の科学技術政策の在り方に一定の影響を与えるとされる。

 学術会議は18年12月、巨額の建設費用などを背景に「誘致を支持するには至らない」との見解を示した経緯があり、プランに載るかどうかは不透明だ。

 次期欧州素粒子物理戦略は、スイスの欧州合同原子核研究所(CERN)を中心に策定する。国際協力が欠かせないILC計画を、どう位置付けるのかが焦点となる。

 最大の課題となるのは、7355億~8033億円と見込まれる巨額事業費の費用負担だ。

 研究者サイドは高エネルギー加速器研究機構(KEK、つくば市)が中心となって19年10月、負担の在り方を文科省に提言。加速器を設置するトンネルなどの土木は日本、加速器本体は参加する各国の分担とする内容で、政府間交渉の参考としてもらう狙い。

 20年度政府予算案には加速器のコスト削減に関し、従来の米国との協議に加え、フランス、ドイツとも個別に議論を始める費用が新たに盛り込まれた。

 誘致を求める研究者らは、政府判断の遅れで国際的な関心が低下することを懸念する。中国が先端加速器の整備計画に乗り出すとの見方が強まっていることも気掛かりだ。

 東大素粒子物理国際研究センターの山下了特任教授(素粒子物理学)は「ILC計画はこれまで、世界各国の専門家の高い支持を受けてきた。中国が先行するようなことになれば、日本の求心力は一気に低下する」と危惧する。

 20年の見通しに関し「国内と欧州双方で前向きな結論を期待している。現地での設計や施設運営の準備にはいつでも動ける。海外への情報発信を含め、政府の強力なリーダーシップが不可欠だ」と強調する。