「胎内音」という言葉があります。母親のおなかの中にいる時に聞いていた音のことです。私たちは母親のおなかの中でいろんな音を聞いて育ったのです。春の雪が降るのを眺めながら、作者は胎内で若い母親の髪を濡(ぬ)らした春の雪の音を聞いたと思うと歌っています。何ともロマンチックで郷愁を誘う表現です。冬の雪ではなくて「春雪」が絶妙。消えやすくてはかない命のあたたかさ、そしてやわらかさを感じます。歌集『湖西線』より。(本田一弘)