生身のからだがこの世から失(な)くなってしまっても、大切な人の記憶は決して失くなることはありません。この作者の場合は夫です。ある時、夫が使っていた手鏡に「指紋」がついていることに気がつきました。「いない」のに「いる」ような何とも不思議な気分です。そんな手鏡には春の青い空が映っています。もうそんなに悲しまなくていいんだよ。春の青空が作者の悲しみを少しずつ溶かしているような気がします。歌集『土星蝕』より。(本田一弘)