「霜降り」という言葉を聞くと、高級な和牛の肉のイメージが浮かんでくるのではないでしょうか。筋肉の中に脂肪を上手に入れていくと、肉の赤色と脂肪の白色がきれいに混在した霜降り肉となるのです。

 この霜降り肉を作るためには、食事のバランスや量が大切です。それに加え、成長ステージに合わせて食事の中身も変化させていく必要があります。

 牛は産まれて2年弱で食肉になるのですが、それは寿命とは程遠い若さです。しかし、人間で俗に言うメタボ体形以上に、肥満の状態まで太ることを強いられた牛にとっては、産まれて2年が寿命に近い年齢であるといってもよいのかも知れません。

 肉のうま味といわれるものの成分は脂が主役です。マグロではトロがそれに当たります。脂が乗った肉がおいしいのは、魚も牛も一緒ということです。

 こうして、おいしい肉を努力しながら作っているのですが、肥満自体は体に悪いことは誰でも知っています。それでも、牛は生産効率を高めるために短期間で大きくなるように肥育されるのです。

 この間、完全な草食動物である、本来ならば草しか食べない牛に、炭水化物や脂質類も与えます。その結果、体にとって良くない食事を食べ続ける牛たちは、よく病気になり、死ぬ牛も少なくはありません。

 消化不良を起こしておなかにガスがたまる、太り過ぎて脂肪肝になる、心肺機能に負担が掛かり過ぎて肺炎になりやすくなる、糖尿病になって目が見えなくなるなどです。

 おいしい肉を提供しようとすればするほど、牛は病気になりやすくなると言えます。

 私は牧場での仕事を経験し、ここまでしておいしい肉を食べたがる人間という生き物はむしろ、もう少し健康な牛の肉をおいしいと思える味覚に変わっていくべきなのではないか、と考えさせられました。

 牛たちが広大な敷地で放牧され、しっかりと歩きながら生き生きとした青草をたらふく食べて、最も健康体であるその肉が、最高級の肉であると評価されるのが、一番自然な形なのではないでしょうか。

 将来、一人でも多くの人たちが、健康な牛の肉が一番おいしいと評価してくれることを願っています。
(獣医師)