日本にいるシカは、ニホンジカと呼び、7種ほどに分類できます。

 最も北に位置する北海道のエゾシカは、最も体が大きく最大140キロにまで成長します。シカの天敵がいない北海道では、エゾシカは爆発的に殖え続け、農業被害、電車や車との衝突事故が多発しています。電車との衝突事故は年間2500件にも及ぶとのことです。

 本州を代表するシカはホンシュウジカで、近年生息域は拡大の一途をたどっています。山形県では100年ほど前にシカは絶滅し全くシカのいない地域でしたが、今年のシカの目撃情報は60件を超えています。ここ本州でもシカの天敵はいないため、北海道と同様に殖え続ける一方です。

 過去に観光のためにシカを放したある島は、殖え過ぎて木々まで食べられ、樹皮を食べられた木は枯れ、それにより地盤は緩み、土地の侵食がどんどん進んでしまったのです。

 今年の台風による土砂災害は、記録的なものとなりましたが、シカが殖え続け、木々が枯れた山々が多くなれば、そこは少しの雨量でも土砂災害が起きる可能性が出てくるのです。日本の生態系が崩れている今、これからはどんどん自然の姿も変わり、多くの災害が起こることが予測されます。

 明治時代にニホンオオカミが絶滅してから、生態系のピラミッドの頂点に立つ肉食動物が日本には存在しないという、ある意味、生態系を崩壊させる危険な状態が続いているのです。その代償が今ここに来て、多くの事故や災害の恐怖となって現れています。

 シカの食害に苦しむ九州のある市では、オオカミを山に放す案が検討されましたが導入には至りませんでした。米国のある地域では、それが成功している事例があるようです。

 野犬が収容され、オオカミがいない日本は、世界的に見ると極めてアンバランスな生態系を持った国だということを、多くの人たちに理解してもらえればよいと思います。

 ミツバチが絶滅すれば、5年後には人類が滅びると説く学者もいます。生態系とは、それほどまでに、微妙なバランスを取りながら持ちつ持たれつで成り立っているのです。
(獣医師・川村康浩)