私が宮城県の川崎町に引っ越してきて3年がたちました。ここに移り住んだ当初から、駆除された野生動物の肉や毛皮などの有効な利用が、無駄死にをなくす「命のリレー」であると考えて、それを実践してきました。

 ここ川崎町で特に農業に最も被害を与えている動物がイノシシです。私は、昨年1年間で約120頭のイノシシを解体しました。

 近年、イノシシは生息域をどんどん拡大し北上しています。最近までイノシシの生息域ではなかった岩手県、秋田県、青森県にも、現在はイノシシが生息するに至っています。

 東日本大震災の影響であると思われますが、福島県で野生化したブタとの交雑種と思われるイノシシが川崎町では多くみられます。地域の人たちは「かわいい顔」と言っていますが、明らかに関東以南にいるイノシシとは顔つきが違ってみえます。

 口先がかなり長いのがイノシシの特徴で、この長い口先により犬よりもはるかに優れた嗅覚を持っています。しかし、この辺りのイノシシの口先は少し短く、ブタに近い顔つきをしています。多くの個体を解体している私の経験でも、口先が長いイノシシは少ないです。

 その他の特徴として、どうやら皮下脂肪が付きやすいのではないかと感じています。犬歯の大きさも、体の割には小さい個体が多く、成長が早いから犬歯が小さいのか、ブタの遺伝子が入っているから小さいのか、もしくはその両方の要因が関係しているのかもしれません。

 家畜であるブタは生産効率を最大限に高めるために、品種改良が重ねられてきました。その遺伝子をイノシシが持ったとすれば、当然ながら出産頭数の増加も起きてきます。実際、イノシシの平均出産頭数は3~4頭ほどですが、川崎町のイノシシは4~6頭ほど出産しているようです。

 成長が早く、繁殖力も高く、皮下脂肪を蓄える力も強いなど、もろもろの要因が重なり、あっという間の生息域の拡大につながっているのではないかと考えています。特に冬場における皮下脂肪の充実は、寒さをしのぐ武器になります。

 このような理由から、少なくとも東北地方のイノシシは、今までのイノシシと同じ個体ではないという認識が必要になってくると感じています。今後、このイノシシの変異が人々の生活にどういった影響を及ぼしていくのか、真剣に考えていく必要があるでしょう。
(獣医師・川村康浩)