イノシシが10年ほど前に比べて、爆発的な繁殖をしていることは前回述べました。積雪量の多い場所では姿を見ることがなかったイノシシが、雪の多い地域にも現れはじめたということは、今までよりも寒さに耐えられる能力を獲得した結果だと考えます。

 このような能力の獲得は、今以上に個体数が増えても生き抜いていける大きな要因となります。それに加え、さらに繁殖の勢いに拍車を掛けている要因に、人里と野生動物とのすみ分け境界線の崩壊があります。

 ここ宮城県川崎町でも休耕している農地は非常に多く、背丈ほどの雑草が伸び放題となっている場所や、以前は田畑だったとは思えないほど木々が生い茂っている所も多く見受けられます。そういった場所は、野生動物たちにとっては格好のすみかであり、身を潜めるにも最適です。

 食料も、実った田畑のコメや野菜を頂戴したほうが調達が楽です。人間もそれには策を講じてはいるものの、知恵をつけた野生動物たちは次々に田畑を荒らすことになるのです。

 電気柵で囲まれた田畑の光景は、今では当たり前ですね。昔の農村を思えば異様にも映りますが、この柵がなければ田畑は一晩であっという間に食い荒らされてしまうのです。鼻先が電線に触れれば電気が体を流れますが、イノシシは大変知能が高く、この電気柵ですら破って田畑に入るものもいます。

 柵の電線は通常3本使用するのですが、経費削減を考えて2本しか使わない場合、鼻先を触れないように上手に電線と電線の間に突っ込んで柵を壊して田畑に侵入したり、電気の通りづらい毛の厚いお尻で電線を押し破り入ったりするのです。

 ブタの知能指数(IQ)はイヌより高いといわれ、イノシシも、ブタに匹敵するIQの持ち主なのでしょう。野生動物たちの知能は、恐らく人が想像しているよりも、はるかに高いものだと考えます。

 そうであるならば、人と野生動物がすみ分ける境界線を作るために、最も効果的な手段は、人間は怖い生き物だと学習させることです。これは動物保護とはかけ離れた問題ではなく、表裏一体のつながりを持つべきことなのです。

 生態系のバランスもあります。生態系とは、さまざまな動物たちがバランスのいい数だけ繁殖し、生息していなければならないということなのです。動物の数の制限が、生態系のバランスには不可欠なのです。

 動物の愛護、保護、駆除、これら全てはつながりを持っていて、命のリレーが行われています。詳しくは私の著書「田舎暮らしの変な獣医が思うこと」(風詠社)でも述べていますので、もう少し深く知りたい方は読んでみてください。(獣医師・川村康浩)