私は、田舎暮らしを始めて3年間で、300頭を超えるイノシシを解体して調理し、約30匹の犬の食事を作ってきました。体重が10キロに満たない小さなイノシシから、130キロに及ぶものまでありました。

 季節によっても体格に違いがあり、秋は俗にいう脂が乗って丸々太っているものが多く、逆に夏は痩せて肋骨(ろっこつ)が浮き出て見えるガリガリの個体もいます。

 夏は草が生い茂り、雑食であるイノシシはそれをたくさん食べていそうです。しかし、夏場の草は成長が極めて速く、水分ばかりが多い栄養価の低い食事になるのです。

 畑から野菜を頂戴しようとしても、夏場に収穫できる野菜は比較的少なく、しかもやはり栄養価の低いものがほとんどです。そのような理由から、私たちがイノシシの肉を食用とする場合も、断然秋に捕れた個体を選ぶことになります。

 それほどイノシシが多くなかった昔は、捕れたものは何でも食用にしたようですが、私の住む田舎では、秋から冬場に捕れたイノシシ以外は、あまり食用とはしません。しかも、食べるのは雌がほとんどです。

 ジビエの肉は臭みがあるといわれますが、個人的にはむしろ豚肉のほうが臭みがあると思えるほど、イノシシ肉には感じたことがありません。

 スペインのイベリコ豚という最高級の豚は、ドングリのなる山に放すそうですが、まさに秋のイノシシはそのドングリや栗をたらふく食べているのです。当然おいしい肉になります。

 豚肉と同様に調理すれば、何でもおいしいです。お薦めの一つはカレーライスで、おそらくほとんどの人は豚肉としか思わないでしょう。むしろ、この豚はとてもおいしいねと言うかもしれません。

 カツや、から揚げにしてもおいしく、しょうが焼きなども最高です。

 年末に130キロほどの雄イノシシを捕り、焼き肉にしてみました。初めて雄を食べ、初めて臭みを感じました。食べられないほどではありませんが、これが臭みというのだなと思いました。若い個体の方がおいしいともいわれ、大きな雄だったので特に臭みが強かったのだと思います。

 血に関しては、肉にもたくさん含まれているわけで、まずいものではありません。栄養価がある半面、腐敗しやすいことから誤解されています。

 体温や気温が高いと傷から細菌が入って、増殖し臭みを出します。でも、傷が付いておらず、捕ってすぐに冷やしたものは、おいしくいただけます。

 イノシシとシカを合わせて国内で年間約100万頭が焼却処分されています。何とか命のリレーができないかと常々考えています。原発事故による一部地域の出荷制限も続いていますが、安全なものについてはぜひ、ジビエを敬遠しないで食べてみてください。
(獣医師・川村康浩)