音楽と絵画で読むT・S・エリオット 熊谷治子 著

 ノーベル文学賞受賞者で、ミュージカル「キャッツ」の原作者としても知られる英国の詩人T・S・エリオット(1888~1965年)。中でも「四月は最も残酷な月」で始まる「荒地」は、第1次世界大戦後の社会不安を描き出し、「現代詩の幕開けを飾った」と評される。本書は、初期の作品である第1詩集「プルフロックその他の観察」と、「荒地」の二つを取り上げ、音楽と絵画をキーワードに詳細な分析を試みている。

 岩波文庫版「荒地」(岩崎宗治訳)を元に、1~3章では、「プルフロック-」収録の4作品をダンテの「神曲」との比較で解説。4.5章ではワーグナーやストラビンスキーの楽曲との対比で「荒地」を読み解いた。

 著者の読み込みは丁寧かつ慎重だ。例えば、「プルフロック-」所収の「ある婦人の肖像」に焦点を当てた第2章。薄暗い部屋で、ある婦人がショパンの「前奏曲」に絡めて、青年に向かって自分の思いを伝える場面。著者は、作品冒頭で引用された戯曲「マルタ島のユダヤ人」が、詩にもたらした効果について考察する。

 「やっただろう、おまえ-」「姦淫(かんいん)のことか。いや、ありゃ外国での話だ。それに女は死んでしまったよ」の一文によって、作品全体を「私通」という言葉で印象付けている、と指摘。

 さらに、「ショパン」と「私通」という二つの単語から、ショパンと愛人ジョルジュ・サンドの交際と破局に連想を発展させ、複雑な構造を持つ「ある婦人の肖像」が、破滅的なイメージで貫かれていることを解き明かしてみせる。

 著者は仙台白百合女子大講師(英米文学)。エリオットが生きていた当時の音楽、美術に関する知見のほか、政治、社会風俗など幅広い知識を駆使し、詩の深層に隠された意味をつかもうと肉薄する。「難解」とされるエリオット作品を読み解く上で、貴重な手掛かりとなる一冊だろう。

 彩流社03(3234)5931=4860円。