心を彫る 田川憲と棟方志功 高嶋進 著

 青森市出身の板画家棟方志功(1903~75年)と長崎市出身の版画家田川憲(06~67年)。東西2人の表現者に着目し、それぞれの作品世界をたどる。本書は自伝的小説という体裁を取るが、評伝の色合いが濃い。

 著者は1969年に開館し、2000年に閉館した東京・渋谷の小劇場「ジァンジァン」の劇場主。個性的なプログラムで知られ、青森県津軽地方の文化発信にも力を入れた。特に、津軽三味線奏者の初代高橋竹山のライブや津軽弁の方言詩人高木恭造の自作朗読会は大きな反響があり、全国的なブームになった。

 棟方を取り上げた本書も、津軽の文化に対する造詣の深さがにじむ。「土着性は、究めれば普遍に、洗練に至る」との言葉が印象的だ。

 棟方を「文学への思い入れの強い作家」とし、膨大な作品群のうち、「言葉の世界と板画の世界の融合」を感じさせる作品に着目。ドイツの思想家ニーチェの詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を彫り込んだ作品や谷崎潤一郎の小説「鍵」の挿絵を取り上げ、魅力をつづる。

 さらに佐藤紅緑や福士幸次郎ら津軽の作家を挙げ、棟方は「津軽の文学系譜に連なる」と指摘した。

 長崎を拠点に活動した田川については、フランスの詩人ランボーの長編詩「酔いどれ船」を題材にした版画詩集や、かっぱの姿に自身を投影した版画集を中心に紹介する。

 田川の随筆などを引きつつ、影響を与えた哲学や文学について考察する。さまざまな話題が入り交じり、著者の精神世界を旅するような小説部分も所々顔を出す。混沌(こんとん)とした雰囲気は読み手を選びそう。構成に一工夫欲しかった。

 左右社03(3486)6583=1980円。