土門拳の室生寺 土門拳 著

 酒田市生まれの写真家土門拳(1909~90年)の生誕110年を記念して刊行された。39年から約40年にわたり、奈良県北東部の山あいにある室生寺に通い詰めた土門。寺のたたずまいや平安時代初期の木彫りの仏像に魅了されて撮りためた写真100点と、撮影時のスナップ写真、エッセーなどを収録する。

 巻頭から迫力ある大判写真が続く。今では珍しくなったモノクロ写真だが、それだけに撮影対象の光と影、美しさがよりくっきり浮かび上がる。

 寺院群の前を流れる夏の室生川を写した見開きの1枚は、画面の3分の2近くを雄々しく茂る木の葉が占める。それでも、白く写った瀬のそばで釣りをする少年の点景を配したことで、川の写真だと認識させられる。土門はこの少年についてエッセーにも記載。写真を撮った後に病死してしまい、一期一会の出会いだったことが分かり、読ませる。

 土門が「この像くらい利口で頭のいい顔をした、そして天下第一の美男の仏像はなかった」と語った釈迦如来坐像(ざぞう)の作品も収録。衣のひだの質感まで伝わってくるようで、引き込まれる。他の仏像より掲載点数が多く、細部の大写しのカットまで盛り込まれ、土門のこだわりがうかがえる編集だ。

 エッセーでは室生寺の良さばかりではなく、寺周辺の住民の人物像にも触れている。人々の慶弔や、枯れ枝拾いといった当時の子どもの仕事、衣服などの習俗をスナップ写真と共に克明に描いており、単なる仏像写真集にとどまらない。

 「冬、歯がカチカチと鳴る寒い堂内での仏像撮影や、夏、乾板を20ダースも詰めた重いリュックサックを背に汗だくだくで山道を登った」と記す、昭和を代表する写真家の真骨頂に接することができる。

 クレヴィス03(6427)2806=2640円。