樹に聴く 清和研二 著

 動物や昆虫の不思議な生態を描いた本は時折ベストセラーになるが、植物を取り上げた例は意外に少ない。本著は東北、北海道の森で樹木を長年見続けてきた東北大大学院農学研究科教授の著者が、大地に根を張って生きる木々の驚きの生存戦略を解説した貴重な一冊だ。

 実は、森は樹木にとって危険が多い場所だという。葉や実を虫、ネズミに食べられたり、病原菌、カビに腐らせられたり。大洪水で幹ごとへし折られることもある。巨木にまで成長できるのはごく少数。過酷な生存競争にさらされている点では動物も植物も一緒と言える。

 命の連鎖をつなぐため樹木はあの手この手を考える。森の奥まで根を伸ばし、競争率の低い場所で栄養をかき集める木。カビや虫が嫌う成分を葉に充満させる木。さまざま生物と敵対し、ときに共生しながら奮闘する。動物のように子どもの世話はできないが、小さな種子にさまざまな能力を持たせて旅立たせる。

 例えば仙台市を象徴するケヤキは秋、カラカラに乾燥した葉を羽のように風に乗せ、枝ごと実を遠くに運ばせる一方、実を直接近くにも落とす「遠近両面作戦」を採る。地面にしがみつきやすい形状の根によって他種が滑り落ちる急斜面を独占するしたたかさも持つ。

 登場する木は12種。それぞれの一生は似ているようで全く異なる。多様性はさながら曼荼羅(まんだら)模様。そうした木々の声なき声を代弁しようする著者の姿勢が「樹(き)に聴く」というタイトルに表れている。著者自らペンと水彩で描いた精緻なイラストが付き視覚的にも楽しめる。

 著者は1954年山形県櫛引村(現鶴岡市)生まれ。北海道大卒。著書に「多種共存の森」「樹は語る」など。

 築地書館03(3542)3731=2400円