蝶の羽ばたき、その先へ 森埜こみち 著

 中学2年の山口結は新学年初日の朝に耳鳴りと吐き気を覚え、左耳の聴力を失ってしまう。思春期の少女は葛藤と闘いながら、周囲の人たちに支えられ成長していく。

 ただ1人の家族の母親に心配を掛けまいと、結は耳鳴りのことをしばらく黙っていた。しかし症状は収まらず、母親と通院。3カ月後、突発性難聴で左耳はもう回復しないと医者に告げられる。

 親友にも相談できないまま、孤独を深める結。ある日、手話で楽しそうに語り合う人たちに興味を持ち、手話サークルに参加する。同じ病気で両耳が聞こえない今日子との出会いが、結を導く。

 無視されたと勘違いして怒るクラスメート、無神経な言葉で結を傷つける担任教師、不親切な公民館職員など、聴覚障害者の生きづらい現実が丁寧に描かれる。クライマックスの手話落語のイベント。健常者にささいな配慮を促すため、勇気を振り絞ってあることを実行する結の姿に胸が熱くなる。

 春から冬にかけた物語は、四季の移ろいの情景描写が味わい深い。「蝶(ちょう)の羽ばたき」を聞きたいと願う結の姿に、爽やかな読後感を覚える。

 筆者は秋田市出身、61歳の作家。埼玉県在住。2018年にデビューし、本作で日本児童文学者協会「長編児童文学新人賞」を受賞した。

 小峰書店03(3357)3521=1540円。