半島論 金子遊、中里勇太 編

 日本各地の半島を題材にしたアートや文学の論考集。「三方を海に囲まれた陸地の行き止まり」が表現や思索に与える影響を14人が考察した。東北は宮城県の牡鹿半島と青森県の津軽、下北両半島が登場する。

 批評家藤田直哉さんは牡鹿半島が主な舞台の総合祭「リボーンアート・フェスティバル(RAF)2017」を通し、東北と中央の関係性が人々の美的感覚に与えた影響に着目。「天皇がいた地域の文化がよいものとされ、東北の文化はつまらないものとされた」と歴史をさかのぼる。

 その上で、東日本大震災と福島第1原発事故を機に国家や資本主義、科学に対する「東北の反乱」が起きたとして、均質化する社会に揺さぶりを掛けるRAFの試みを評価。半島に暮らす人々の内面や生活に迫ろうとする作品群は民俗学的でもあり、新たな表現のありようを見いだす。

 映像作家細谷修平さんはテント芝居の劇団「野戦之月海筆子(ハイビーツ)」(東京)の足跡を振り返った。震災後、牡鹿半島でボランティアを続けたメンバーらは住民の求めに応じ、石巻市内3カ所で公演。同行した著者は被災者が明日を生き抜くために、演劇が果たした役割を問い直す。

 編者金子さんは津軽、下北両半島に残るアイヌ語の地名をたどる。東北芸術工科大非常勤講師の栗原康さんは、作家石牟礼道子さんが島原・天草一揆を描いた長編小説「春の城」をひもとき、善悪の曖昧さや限界を超えた人間の自由さに独特の文体で鋭く迫った。編者の文芸評論家中里さん(仙台市出身)は、作家佐藤泰志さんの遺作「海炭市叙景」について論考を寄せた。

 いずれも支配や抑圧、時にグローバルな資本主義に対する反乱の象徴として半島を捉える。多様な分野の書き手を通し、地勢と文化の関係性を浮き彫りにした。

 響文社011(790)8713=2420円。