鑑賞 季語の時空 高野ムツオ著

 河北俳壇選者で日本現代詩歌文学館(北上市)館長の著者が、2013年4月~15年12月に俳句雑誌に33回にわたって連載した文章を一冊にまとめた。「異界からの使者」「万象変化」「滅びと再生」の3章構成で、エッセーに207の俳句や短歌24首を織り交ぜ、時代とともに変化しながら豊かさを増す季語の世界を解説する。

 序文で著者は東日本大震災後、被災地の桜が例えようもなく美しかったと言う。芭蕉が故郷伊賀で詠んだ句<さまざまのこと思ひ出す桜かな>を挙げ「鑑賞者ができるのは自らの来し方に委ねて間接的に想像することだけで、鑑賞とは鑑賞者の数だけ存在する。さまざまな読みによって俳句の世界が更新され永遠化される」とみる。

 春の季語「燕」では、震災後の山下知津子の句<つばくらめこの国に子を産み継ぐか>を紹介する。「この国」とは放射能という悪魔に陵辱されつつある国を指す、とした上で「この句の根底には、取り返しのつかない滅びへと向かって進む国に、飛来し何も知らず餌を運び子育てを続ける燕に対する謝罪と人間への糾弾とが裏打ちされている」と読み解く。

 同じく春の季語「鳥帰る」で挙げた句は、金子兜太の<三月十日も十一日も鳥帰る>。著者はこの2日を平穏だった震災前日、当日と受け取った。実際はともに大災害である東京大空襲の日と震災当日であることを知ったと言うが、「どちらに読んでも、それは人間世界のことで、この句の核心は人間と鳥との、気の遠くなるような歳月の時空の対比にある」と述べる。

 あとがきで著者は「連載が開始された年は大震災の3年目を迎えたばかりで、文章の端々にその影が濃くたたえられている。3月11日を境にして世界の見方が変わったと言えるかもしれない」と振り返る。

 KADOKAWA(0570)002301=1980円。