野の詩人真壁仁 楠原彰 著

 1907年山形市に生まれ、戦中、戦後を生き、84年に77歳でこの世を去った農民詩人、真壁仁(じん)。江戸時代から続いた農家の長男で、幼名は常吉(つねきち)、6歳で先祖名の仁兵衛(にへえ)を襲名し、10代後半に詩文を発表、筆名に仁を名乗った。

 一貫して「百姓(ひゃくしょう)」を自称した生粋の農民真壁は、家督の宿命で進学を断念して14歳で農民となり、独学で詩を創作する。向学心あふれた「野の詩人」の誕生から始まる本書は、77年間の生涯を描いた評伝だ。

 「真壁仁は、詩人・思想家であると同時に、平和運動、文化・教育運動の実践者であった。そして何よりも農民であった。<農の精神>を生きた生活者であった」。真壁を簡潔、的確に表現する序文で始まり、「戦前編」「戦後編」各4章、終章「農のエロス、<不運>の稲-真壁仁へのオマージュ」で締めくくる。

 各章で代表的な詩を取り上げ、時代背景や周囲の反応などを盛り込みながら真壁の創作意図を解説する。人生の節目節目を時系列で追い、真壁という人物自体に焦点を当てている。

 国学院大名誉教授(教育学)の著者は、東大大学院時代に真壁に出会った。東北の地に根を張り、多方面の社会活動に尽力していた真壁に大きな影響を受け「私(し)淑(しゅく)」したという。仰ぎ見る「師」へのまなざしは優しくも厳しい。

 第7章「さまよう詩人の魂-組織としがらみのなかで」は、筆者があえて1章設けた特別の章だという。原水爆禁止運動で山形県の代表を務めた真壁が政治、組織の論理に翻弄(ほんろう)されて分裂を招き挫折した事態を例に、真壁の弱さ、曖昧さを批判的にあぶり出す。

 地域独特のしがらみの中で、農民として生計を立て、社会、教育、政治運動に関わりながら、詩をはじめ数多くの著書を残した農民詩人への最大の賛辞を贈っている。(相)

 現代企画室03(3461)5082=3080円。