天鵞絨・他 石川啄木小説選 石川啄木 著

 盛岡市出身の歌人・石川啄木は、24歳の時に第1歌集「一握の砂」を出版した。26歳の若さでこの世を去り、没後間もなく第2歌集「悲しき玩具」が出版され、2冊の歌集で後世に名を残した。活躍した期間はわずか10年ほどだが、多くの小説も残した。本書は、あまり知られていない啄木の小説選集で、創作順に「天鵞絨(びろーど)」(1908年)「鳥影(ちょうえい)」(同)「我等(われら)の一團(いちだん)と彼」(10年)の3作品が収められている。

 故郷の渋民村(現盛岡市)を舞台とした天鵞絨は、農家の娘2人が、かつて地元で店を営み東京で成功した理髪師の男性を頼って上京したものの、呼び戻される話。「鳥影」も舞台は渋民村。教養のある青年男女の交流と苦悩、恋物語などを描いた。

 「我等の一團と彼」は啄木が経験した新聞記者を題材に、記者らの人間模様をつづっている。「天鵞絨」と「我等の一團と彼」は生前未発表で、「鳥影」は当時の東京毎日新聞に連載された。

 3作の題材はそれぞれ異なるが、やや冗漫な展開が共通し、急展開にラストを迎え、未完のような読後感を抱かせる。執筆期間が短い点も共通している。作家の故右遠(うどう)俊郎氏は、巻末に収めた「啄木の小説について」で、テーマのなさを指摘し、「啄木という人は小説をきちんと書かない」とまで言い切っている。

 生涯最後の小説「我等の一團と彼」は、社会主義者幸徳秋水らが死刑となった「大逆事件」を契機に発表した評論「時代閉塞の現状」につながった。この評論を高く評価する右遠氏は、批評精神が啄木の強みだと指摘する。啄木の小説を「偉大なる未完成品」とも形容する右遠氏は短命を悔やみ、「優れた文学精神の持ち主だった」と締めくくっている。(相)

 本の泉社03(5800)8494=1760円。