従業員の健康管理を経営の視点で捉え、戦略的に実践する「健康経営」が、仙台圏の中小企業に広がりつつある。高齢化や人手不足が深刻化する中、従業員に元気で長く働いてもらうことは生産性や業績向上の鍵を握る。仕事が固定化しがちな中小企業で、従業員が健康を害すれば経営にも影響を与える。健康増進への投資は、危機管理の面からも欠かせない。(報道部・高橋公彦)

 遊具の製造販売などを手掛けるミヤックス(仙台市泉区、従業員35人)は、経済産業省が認定する健康経営優良法人の中小規模法人部門に2018、19年と連続で選ばれた。取り組みの柱は、仕事中にできる健康づくりと、定期健康診断を基にした健康リスクの「見える化」だ。

 同社は17年4月、ボタン操作で天板の高さを調節できる昇降式デスクを導入した。事務室のほか、一部の会議室にも配置してデスクワークなどの立ち姿勢を奨励。オフィスでの過ごし方を変えることで、健康維持を図っている。

 昇降式デスク導入後、外勤も含めた従業員の1週間の立ち時間は「1時間」と「3時間」がともに約3割。効果については、約6割が「体調や作業効率が改善した」と回答した。

 デスクワークが多いAIイノベーション事業室の高橋瞳子さん(25)は「1日で約2時間は立つようになった。集中力が切れてきた時に体勢を変えると気分転換にもなる」と話す。高橋蔵人取締役は「運動などは継続が難しく、日常業務の中に取り込むことが大切だ」と話した。

 健康リスクの見える化では、生命保険会社のサービスを活用して、健康診断結果からがんなどの三大疾病や生活習慣病の将来的な発症リスクを分析。5年間で半数の改善を目標にする。月に1度は外部講師を招き、運動や栄養に関する講義も実施している。

 同社が健康経営に本格的に取り組むきっかけになったのは、営業と経理を担う従業員がそれぞれ体調を崩して入院し、業務が滞った経験だった。高橋取締役は「経営規模が小さくなるほど、誰かが健康を害した際の影響は大きくなる。代わりとなる人材の採用も難しく、中小企業こそ従業員の健康に目を向けないといけない」と指摘する。

◎専門家、働き掛け強化 心身の不調は損失

 健康経営に取り組むには、知識やノウハウを持つ専門家の手助けが欠かせない。近年では仙台圏にも導入をサポートする法人が設立され始め、経営者への働き掛けを強めている。

 産業保健全般を手掛けるWAK産業看護オフィス(仙台市青葉区)は、中小規模法人の健康経営へのコンサルティングなどをサービスに位置付け、宮城県内に約20社の顧客を抱える。

 首都圏などと違い、地方では健康経営を個別支援できる専門家が少ない。斎藤郁恵代表は看護師として11年間勤務した経験を基に、産業分野での予防医療が必要と考えて独立した。

 中小企業でも取り組みやすいのは(1)自動販売機の飲料をお茶や水にする(2)バランスボールを椅子にする(3)階段での移動を推奨する-ことなどだという。

 健康経営に取り組む仙台圏の中小企業はまだ少ない。概念を知らなかったり、経費面や結果が見えにくいと導入をためらったりしがちだという。斎藤代表は「大企業には産業医らが従業員の健康を支える保健室がある。『中小の保健室』のような役割を他の専門職と連携しながら果たしたい」と語る。

 ジョイントベンチャー実践支援機構(青葉区)は、中小企業向けに「損失発見サービス」を提供する。従業員の心身の不調による損失額を調べ、必要な対策を実施。2018年8月以降、宮城県内の17社が購入した。

 基本版は休職・離職者数や従業員の欠勤日数から損失額を計算。上級版はパワハラや長時間労働といった職場の実態を調べる。

 ある70人規模の製造業は年間で5人が離職、2人が休職し、新規採用や残業代増加で約3200万円の損失と判定された。人員配置やパワハラに対策を講じた結果、離職者は2人、休職者は1人に減少。約2100万円の損失を圧縮できたという。

 高橋弘代表理事は「従業員が働きやすい職場環境を整備することが健康経営につながる。利益を追い求めても知らず知らずに損失を出していると伝えることが有効だ」と説明する。
[健康経営] 従業員の健康増進を会社の成長につなげようとする考え方。従業員の心身の活力を高めれば働く意欲が増し、業績や企業価値が上がる。企業イメージの向上による人材確保や将来の医療費抑制も狙う。経済産業省は2016年度、「健康経営優良法人」認定制度を開始。東北経済産業局によると、17~19年発表の中小規模法人部門に選ばれた東北の企業・団体は延べ344。うち仙台圏の法人は延べ46。