起業家が寒空の下、氷水に漬かりながらビジネスに懸ける思いを叫ぶ。そんな「ポーラーベアピッチング日本選手権」が11日、仙台市青葉区であった。創業支援に力を入れる仙台市などが主催し、将来は「起業家の聖地仙台」の中核イベントに育てるという。出場者が目指すのはフィンランドでの本選出場。寒気と熱意が交錯する戦いの舞台を取材した。(報道部・高橋一樹)

 市地下鉄東西線国際センター駅の屋上にある「青葉の風テラス」。午後2時、晴れ、気温9度。平年より高めだが、時折吹く風は冬の冷たさだ。観衆50人以上が集まった会場のステージには深さ60センチの氷水を張ったドラム型プールが用意された。

 「ああっ」「くぅーっ」

 岩手、宮城、山形から出場した起業家5人は、それぞれ腰の下まで氷水に入り、冷たさに耐えながら事業内容をスピーチ。スライドや資料はない。あるのは自らの弁舌と熱意、忍耐力だけ。時に叫び、時に中断しながらも、規定の5分間(または耐えられなくなるまで)、自らの事業の可能性をアピールした。

 「IoT.Run」(アイオーティドットラン、青葉区)執行役の斎藤理さん(29)は、中小の製造業の工場にIoT(モノのインターネット)を導入する自社開発の小型装置をPR。機械に取り付けて稼働時間などの情報を集積し、生産効率の向上に生かしてもらう仕組みだ。

 「IoTを仙台からより身近にしたい。普及活動にも力を入れていく」。手に持った装置を氷水に落とさないよう気を付けつつ、言葉を振り絞った。

 今年5月ごろに「ShareSence(シェアセンス)」を太白区で設立予定の藤波純さん(25)は、スマートフォンで撮影した服装を投稿してコメントを付け合う「感想シェアリングサービス」の構想を紹介。「日々の服選びに費やす時間を有意義に使える」と顔をこわばらせながらも力説した。

 フィンランド北部のオウル市で毎年3月に開かれる「ポーラーベアピッチング」は、気温マイナス20度のボスニア湾の氷上で、世界中の起業家約40人がプレゼンする一大イベントだ。オウル市と2005年に産業振興協力協定を結んだ仙台でのイベントは「日本予選」。昨年の第1回は屋内だったが、本番に近づけようと屋外に会場を移した。

 なぜ氷水に入る必要があるのか。運営する創業支援の「MAKOTO(マコト)キャピタル」(仙台市)に聞くと、「特に話したいことがなければ30秒持たない」と担当者。厳しい環境でこそ、事業への「本気度」が試されるようだ。

 プレゼンは投資家ら審査員4人が「収益性」「独創性」「実現可能性」などの基準で採点。優勝を逃した4人は「伝えたいことが固まっておらず寒さで飛んでしまった」「『今すぐ出ろ』という本能との闘いだった」などと振り返りつつ、一様に「来年こそオウルに行きたい」と決意をみなぎらせた。

 審査員も務めたマコトキャピタルの竹井智宏代表は「どの起業家からも世界にチャレンジする意気込みを感じた。5年後10年後、東北人の中に隠された情熱がもっとあふれ出るイベントにしたい」と話す。

◎社会課題に挑む点評価 「ヘラルボニー」副社長がV

 仙台でのイベントで優勝し、フィンランドの本選への挑戦権を勝ち取ったのは企画制作会社「ヘラルボニー」(花巻市)副社長の松田文登さん(28)。

 2018年設立の同社は知的障害のあるアーティストの作品販売や空間デザインを手掛ける。福祉施設とライセンス契約を結んで商品開発したり、デザインで企業などから得た収益をアーティストに還元したりしている。

 松田さんはプレゼンで「アートを通じて出合いの場をつくることで障害のある方のイメージは根本的に変わる。障害という言葉が持つ重い空気を変えたい」と熱弁。社会課題に挑んでいる点などが評価された。

 仙台市の関係者らと3月8~15日にフィンランドを訪問し、現地で大学や新興企業を回る予定。本番は12日。双子の弟で社長の崇弥さん(28)と氷の浮く湖に入り、今度は英語でプレゼンする。

 自分たちの事業を世界中に発信するとともに、各国の起業家とつながる絶好のチャンス。松田さんは「アートの素晴らしさを世界に訴える。オウルでは寒さ以上の自分の熱量を爆発させたい」と意気込む。