「この世界の片隅に」「進撃の巨人」などの作品を手掛けるアニメ制作会社MAPPA(マッパ、東京)が、仙台市に初の地方拠点となる仙台スタジオを設立して2年半が過ぎた。デジタル化された作画現場はアニメーターを着実に育て、新型コロナウイルス下でも存在感を示した。アニメ業界を志す東北の若手の受け皿に成長しつつある。
(報道部・高橋一樹)

 宮城野区のビル6階。フロアに並べられたデスクで、主に20代の「動画マン」と呼ばれるアニメーターの社員がタブレット端末と向き合う。シーンを何度も送ったり戻したりしながら、キャラクターの動きが自然になるようカットに線を引き、色を付ける。どの目も真剣そのものだ。

 仙台スタジオが担うのはアニメ制作の中心的作業である「動仕工程」。脚本を基に作られた原画を受け取り、間のカットを描いて動画にする。30分間のテレビ番組1本なら原画約350枚を4000~4500枚に仕上げ、背景や音声を付ける工程に回す。

 全体の統一や修正も担当する作画監督の桑原剛さん(37)は「動仕工程は原画に込められた意図を感じ取り、作品の世界観を引き出して形にできるかどうかが求められる」と話す。

 仙台スタジオは2018年4月の設立。新規採用した大学や専門学校の卒業生8人を含む13人でスタートし、現在は31人に拡充した。うち東北出身は12人で、北海道から九州まで全国から集まっている。

 一般的な動仕工程は紙で行うが、仙台では全ての作画をデジタルで実施する。前後の工程を担う東京の制作現場とはデータをやりとりすれば良く、場所的な制約がなくなった。ペーパーレスで作業場や手が汚れないという利点もある。

 桑原さんは「最近はタブレットの感度が上がり、手描きに近い線を表現できる。素材受け渡しの手間がないので作画に時間を割ける」と説明。19年10月入社の森悠咲(ゆうさ)さん(22)も「思い通りの線を引けるので最初から戦力として働けている」と笑顔を見せる。

 アニメ制作の東京一極集中是正が開設の目的だった仙台スタジオは、新型コロナ下で真価を発揮した。

 感染拡大に伴う国の緊急事態宣言が出された4月、業界では対面作業や外注の遅れで放送延期が相次いだ。仙台スタジオでは即座にテレワークに移行。打ち合わせもテレビ会議システムで行い、スケジュールに遅れは生じなかったという。今も社員の半数は在宅勤務を続けている。

 仙台スタジオはマッパの作品の9割で動仕工程を支えてきた。現在は今月放送が始まり、仙台市も舞台となっている「呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)」、マッパオリジナルの「体操ザムライ」、今後放送される「進撃の巨人 The Final Season」の作業が進行中だ。

 最近はデザインココ(仙台市)の協力で、作品の人気キャラクターのフィギュアも制作している。アニメに関わる地元企業との連携も進める方針だという。

 仙台スタジオの大井川亮所長は「デジタルツールの導入により地方拠点として不利な面はなく、むしろ実践の機会に恵まれた環境になった。今後は背景美術や3Dなどのスタッフも採用し、東北一・日本一のアニメ制作スタジオにしたい」と力を込める。

◎全員が正社員 働きやすく

 デジタル作画を担う次世代アニメーターの育成を目指すマッパ仙台スタジオ。全員を正社員で雇用し、この業界としては充実した勤務体制を敷いているのも特徴だ。

 「勤務時間午前10時~午後7時」「週休2日、年次有給休暇」「賞与年1回」「社会保険、雇用保険完備」…。仙台スタジオの採用要項には、一般的な企業と同じような文言が並ぶ。

 「かつての業界では考えられないほど働きやすい環境」。仙台スタジオで作画管理を担う坂井憲興さん(46)は打ち明ける。

 坂井さんらによると、業界では正社員として働くアニメーターの方が珍しい。フリーランスや契約社員の立場で業務を委託され、出来高制の給料をもらうのが基本。駆け出しは無給に近い状態のことも多く「ブラック」な勤務形態が今も残っているという。

 坂井さんは約25年前から業界で10年以上働き、別業種に転じた後、18年10月にマッパに入社した。「生活に困窮して業界を離れるアニメーターを何人も見てきた。これからは個人の意欲だけに頼る環境では、人は集まらない」と語る。

 仙台スタジオではほとんどの社員が定着している。大井川所長は「将来的には地元の専門学校や大学と授業レベルで連携し、現場のスタッフが指導した学生が入社する流れをつくりたい」と思い描く。