魚沼産コシヒカリのかつてのライバルが、新型コロナウイルス禍で行き場を失っていた。

 福島県会津坂下町にある会津よつば農協(福島県会津若松市)の農業倉庫に7月中旬、会津産コシヒカリ30キロ入りの袋が4メートル以上の高さに積み上がっていた。

 「地域内にある約90の倉庫は全部こういう状況だ」。米穀課長の筒井秀さん(49)がため息をつく。

 異変が起きたのは今年3月。飲食店の休業や営業時間の短縮が相次ぎ、業務用米の需要が激減。4月には農協が抱える在庫の出荷が大幅に滞った。

 農林水産省によると、福島県産米の在庫量は6月末で14万3600トン。昨年の同じ時期より2万3000トン多い。年間供給量の約3割が在庫になった計算だ。

 東京電力福島第1原発事故後、福島県の農林水産物は敬遠され、国内屈指のブランドとして出荷の半分以上が家庭で消費されていた会津産コシも大打撃を受けた。「福島産」と袋に印字されることから引き合いが減り、「国産」とだけ表示される業務用米へのシフトが一気に進んだ。

 2017~18年産米の業務用比率は65%に達した。業務用米の比率が初の全国トップになったのもつかの間、筒井さんは「やっと業務用シフトが軌道に乗ってきた時にコロナが来た。いまは八方ふさがりだ」と頭を抱える。

 コロナ禍は、業務用に依存せざるを得なかった県産米の販売構造のもろさを浮き彫りにした。家庭用と業務用のバランスをどう取るか。販売戦略を見直す動きも出ている。

 来年秋にデビューを予定する県オリジナルの新品種「福、笑い」。粒が大きく強い甘みが特徴で、家庭用のトップブランドを視野に入れる。

 「新たな銘柄の登場で、会津産コシヒカリと食べ比べができるなど販売戦略が広がる」。福島県内で先行栽培する柳津町の斎藤寛さん(42)が、青々と成長した稲を前に期待を込める。

 今シーズンから県内の大半で、コメの放射性物質検査が全量からサンプルに移行する。県は「福、笑い」の生産を、農産物の生産工程に関する認証制度「GAP(ギャップ)」を持つ農家に限り、ブランド力を高める方針だ。

 コメ余りが常態化する一方で、ブランド米を巡る産地間競争は激しさを増す。会津産コシが置かれていた首都圏や関西圏の量販店の棚は原発事故後、山形県産のつや姫などに奪われ、固定化したままだ。

 「風評を乗り越えるには、消費者にアピールできるコメを作り続けるしか道はない」と斎藤さん。福島県産ブランドの復権が、農家の誇りを取り戻すことにつながる。

 福島県の農林水産物が、東京電力福島第1原発事故後の価格低迷を克服できていない。安全であるにもかかわらず、不安視して買い控える風評被害が底流にあるとされる。東日本大震災から10年目の今年、牛肉やコメの放射性物質検査は縮小され、漁業も全魚種の出荷が可能になった。転機を迎えた生産現場から、長引く問題の実相を追った。