東京電力福島第1原発事故が福島県にもたらした風評被害とは何か。10年目の現状とどう向き合えばいいのか。いわき市を拠点に復興に関わってきた地域活動家の小松理虔氏(40)と、事故後の県産品を巡る状況を分析した筑波大准教授の五十嵐泰正氏(46)に聞いた。

◎対策の効果 検証必要/地域活動家 小松理虔氏

 -風評被害とは何か。

 「福島県産品を食べられないという声や市場評価の低下が、福島の人たちを傷付けてきた。心の被害が大きい。しかも風評対策自体が福島の復興を阻んでいる」

 -どういうことか。

 「市場調査では県産品への忌避感は弱まっているが、県や市町村は『風評がある』と訴えて国から予算を取らざるを得ない。風評を払拭(ふっしょく)したいのに風評を強調する構造で、流通業者が取り扱いに慎重になるなどの誤解を招いている」

 「一方でブランド力の低さといった震災以前の課題も『風評』という言葉に覆い隠されてきた側面がある。地元の課題や市場構造をドライに見つめなければ問題は解決しない」

 -国や行政の風評払拭事業をどう見るか。

 「大手広告代理店にPRを委ねて東京にお金を環流させるだけだったり、ビッグイベントにこだわって生産者の顔が見えなかったりしていないか。効果を検証してほしい」

 「予算の使途はボトムアップ型で議論し、等身大の情報発信を通じて地域に誇りを持つ人を増やす。それこそが復興ではないか」

 -福島第1原発構内で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水について政府小委員会が2月、海か大気への放出を現実的選択肢と提言した。

 「漁業の本格操業が見えてきて水産業界が本格復興のスタートラインに立ったのに、数十年も放出が続けば風評被害で壊滅する。後継者難などに悩む福島の水産業をどうしたいのか、ビジョンを話し合う場もないことが問題だ」

◎「良い風化」層に期待/筑波大准教授・五十嵐泰正氏

 -原発事故から時間がたち、風化が進んでいる。

 「記憶が薄れ、福島県産品を気にせず買うようになった人は『良い風化』だ。福島の現状や安全性を把握しての購入ではないが、生産者にとっては売り上げが戻るので問題ではない」

 「『悪い風化』は相当分厚く存在している可能性がある。普段は事故を意識しないが、福島へのネガティブなイメージがうっすらと残り、店頭で選択肢があれば県産品を避ける人だ。手厚い放射性物質検査のことなど正しい情報を発信し続ければ認識を変えられるとの意見もあるが、関心を失っているので伝わらない」

 -東日本大震災後の早い段階で、農林水産省が「食べて応援」を呼び掛けた。

 「時期が早すぎた。当時は放射能汚染の実態が不明で、その後に牛肉やコメから暫定規制値を超える放射性物質が検出された。『被災地を応援したい』と県産品を手に取りかけた消費者は裏切られたと感じ、政府に不信感を抱いた。ともに現在まで尾を引いている」

 -県産品の現状をどう見るか。

 「流通業者が他産地に切り替えたことで販路を失い、市場での地位も落ちている。産地間競争の中、農林水産物の販売強化は原発事故にかかわらず重要な課題だ。この9年5カ月、風評被害に注力せざるを得なかったため、ブランド力強化を進めた他産地に後れを取ってしまった」

 「県産品を気にせず買う人を100パーセントにする必要はない。絶対に避ける人と『悪い風化』層の合計を2割としても残り8割は市場として十分。安全性を確保した上で、おいしさや品質で売り込めばいい」