東日本大震災の津波で児童と教職員計84人が亡くなった石巻市大川小。学校管理下で戦後最悪とされる事故の説明に費やされたのは、わずか9分間だった。

 「学校は独自の立場から津波ハザードマップの信頼性を検討すべきだ」

 宮城県の小中学校で学校防災の中核を担う安全担当主幹教諭78人が参加した9月1日の研修会で、昨年10月に確定した仙台高裁判決の要旨が読み上げられた。

 わずか9分間とはいえ、県教委が同種の研修会で高裁判決を取り上げたのは初めてだ。

 県と仙台市は東日本大震災を受け2012年4月、県内の拠点となる40の公立小中学校に防災担当主幹を、全ての公立小中高校に防災主任を置いた。全国初の試みで、学校防災の進展に期待が高まった。

 制度導入からわずか4年後。防災担当主幹の肩書はより幅広い「安全」に変わり、いじめ、不登校、交通安全など対象が拡大した。

 「安全」の名称が象徴するように、この日、大川小事故の説明を含め学校防災に割かれた時間は座学中心の30分間。5時間に及んだ研修の大半は、いじめや交通安全の講義が占めた。

 県教委教職員課の光岡弘通主幹(47)は「学校安全に求められる内容は多岐にわたり、思うように学校防災を扱い切れていない」と実情を明かす。

 現場でも防災の優先順位が下がる。沿岸部の中学校長は「いつ起きるか分からない自然災害に備える学校防災は、多忙な教育現場では後回しになりがちだ」と漏らす。

 震災を経験した教員の退職が年々増え、教育現場の風化が加速する。県教委と仙台市教委によると、11年度以降に採用した教員は計6007人で県全体の39.7%。震災を経験した教員は、3年後には半数を割り込む見通しだ。

 「車の中で避難ができるよう校庭を駐車場にしよう」「赤ちゃんがいる家族は2階の教室を使って」

 久慈市大川目中で9月23日に防災研修会があり、教員3人と3年生12人が避難所運営ゲーム「HUG(ハグ)」に取り組んだ。

 名前や年齢、病気の有無などが書かれた「被災者カード」が次々と読み上げられ、避難所に見立てた校舎の平面図に生徒がカードを割り振った。

 3年担任の佐藤葵教諭(30)は「災害時に何が必要か自分事として具体的に想定できた。生徒と一緒に取り組み、より深く考えられた」と話す。

 岩手県教委は、教員向けの防災研修で災害シミュレーション演習や被災地訪問などの「間接体験(疑似体験)」を重視する。座学が多い宮城県とは対照的だ。

 昨年度はHUGなどを活用した体験型の研修会を30回開いた。本年度は新型コロナウイルス禍にもかかわらず、36回を予定し、来年度はさらに増やす。

 県教委学校調整課の小松山浩樹主任指導主事(49)は「体験型の研修により教員たちの目の色が変わる。防災教育に答えはないが、子どもたちの命を守るため、考え続けたい」と話す。