石巻市大川小津波事故を巡り、市教委と学校の組織的な過失を認めた仙台高裁判決が確定して1年。責任の所在が「組織そのものにある」と認めた判決は、各方面に波紋を広げている。

 栃木県那須町の那須温泉ファミリースキー場周辺の国有林で2017年3月27日、登山講習会に参加した県立大田原高山岳部の生徒7人と教員1人が雪崩に巻き込まれて死亡した。

 遺族が県や校長らに謝罪と損害賠償を求めた民事調停が今年7月、宇都宮簡裁で始まった。

 県教委と高校には、安全管理を怠った組織的過失がある-。主張の一部で弁護団が参考にしたのは、大川小訴訟の確定判決だった。

 遺族代理人の原田敬三弁護士(76)は「大川小確定判決は、行政の組織的過失を認めた点が画期的だ。学校災害の訴訟などで広く普及してしかるべき判決だ」と評価する。

 県教委には雪崩事故の危険を防ぎ、事故に適切に対処できる管理運営体制を整える義務が、高校には事故防止のマニュアルを作る責任があった-。学校保健安全法を根拠に据えた調停申立書の論点は、まさに大川小訴訟での原告の主張と重なる。

 大川小訴訟の仙台高裁判決は、児童の安全確保は「公教育制度に不可欠の前提」であり「根源的な義務」と強調。学校保健安全法を論拠に学校と市教委が組織で負う安全確保義務を初めて定義した。その上で地域の実情を踏まえたマニュアル整備などを怠ったとして、学校や市教委の組織的な過失を認めた。

 一方、一審の仙台地裁判決は、襲来直前の「7分前」に津波を予見でき、避難の判断を誤ったとして、現場にいた教員だけに責めを負わせた。現場か組織か-。焦点は対照的だ。

 原告代理人だった吉岡和弘弁護士(72)は「社会の分業化が進む中、大川小確定判決は指揮部門も含めた責任追及に役立つ」と期待する。

 広島県北広島町の元小学校教諭の女性が、流産したのは校長に責任があるとして17年11月、町に損害賠償を求めた訴訟も、大川小確定判決を基に町側に組織的過失があると主張した。

 女性側は、町教委が人手不足や業務過多の状態を放置し、休暇を取りづらい環境をつくったと指摘。町教委の担当者や他の教職員が、母体の安全を守る義務を怠ったと訴えた。

 今年6月の広島地裁判決は校長が注意義務に違反したと認めたものの、勤務実態と流産との因果関係を否定し、原告の請求を退けた。

 原告代理人の風呂橋誠弁護士(57)は「校長が代わっても同じ事故は起こり得る。大川小確定判決のように組織の過失が認められれば、問題の本質に迫り、組織が顧みる契機になる」と訴える。

 航空機や列車事故などに詳しいノンフィクション作家の柳田邦男さん(84)は「現場だけの責任追及では再発防止につながらないという『組織事故論』は1990年代以降、世界の航空界で主軸になったが、国内の司法界に導入された意義は大きい」と指摘する。

 さらに「学校に限らず企業や福祉施設などあらゆる組織が判決を自らに置き換え、防災を見直す意識を持てるかどうかが問われる」と語る。