石巻市大川小津波事故訴訟で、学校の事前防災の不備を認めた仙台高裁判決が確定して1年が経過した。学校現場は判決とどう向き合い、どう変わるべきなのか。確定判決の意義は何か。多賀城市教育長の麻生川敦氏、文部科学省安全教育調査官の森本晋也氏、東大大学院法学政治学研究科教授の米村滋人氏に聞いた。

◎教職員間で率直に議論/多賀城市教育長・麻生川敦氏

 -大川小確定判決をどう見ているか。

 「学校側が事前にもっと備えるべきことがあったという指摘だと捉えている。一方、『絶対に子どもを守らなくてはならない』という重圧と受け止めている学校現場も一部ある」

 「『子どもの命を100パーセント守る』意識は当然だ。ただ、失敗は許されないというプレッシャーが、命を守る決断の妨げになってはいけない」

 -備える上で大切なことは何か。

 「災害時に状況が緊迫してくると、地域住民から多くの意見が出る。そういう時こそ冷静な判断が必要だ。防災には明確な答えがない議題が多い。管理職は率直に話し合える校内の雰囲気をつくり、肩書に関係なく適切な意見を取り入れる度量を持つべきだ」

 -宮城県南三陸町戸倉小の校長として、震災直後の避難を指揮した。

 「校舎が津波で水没する前に学校から徒歩約10分の高台に避難した。津波が迫り、さらに上の神社に『2度逃げ』をした。結果的に学校にいた子どもたちは守れたが、地震発生から10分以内に津波が来ていたら私の判断は間違いだったかもしれない。全力で備えていたつもりだが、相当厳しい場面だった」

 -大川小の児童遺族は真相究明を司法に託した。

 「最悪の事態になった場合、知り得る限りを説明するのが学校の責任だ。戸倉小では、帰宅した非常勤講師が津波の犠牲になった。母親は当日の具体的な経緯を知りたがっていた。記憶している全てを話したが、詳細なメモを取っておくべきだったと反省している」

 -学校が心掛けるべきことは。

 「命を守ることに全力を注ぐことが大前提となる。うまく事態が運ばなかった場合も想定したリスク管理を徹底してほしい」

◎教科横断的に防災学習/文科省安全教育調査官・森本晋也氏

 -大川小の確定判決は、防災に関して住民より高いレベルの知見を学校側に求めた。

 「判決内容に不安を抱いた教職員が多いかもしれないが、専門家のような知識を持つことを求められたわけではない。自治体の防災担当や専門家の意見を聞きながら、学校周辺の地形について自分の目で確認することが大切だ」

 -教員向けの防災研修は、どんな工夫が必要か。

 「避難時機などを時系列で想定する『タイムライン』の作成や災害図上訓練『DIG』が効果的だ。過去に地域が経験した災害を題材にすれば、さらに具体性が増すはずだ」

 -子どもたちに対する防災教育はどうあるべきか。

 「川はどのように流れ、扇状地にどういった危険があるのか。自分の住む地形や災害の特徴について、複数の教科の中で横断的に扱うことで自分事として考えられる。避難訓練を行うなど実践的な学習を加えれば、さらに課題意識が高まる」

 -文部科学省は確定判決を受けた学校防災に関する通知の中で地域連携の推進を促した。

 「教員は人事異動があり、地域のキーパーソンとどうつながればよいか悩んでいる人も多いだろう。まずは自治体の担当者らを通じ、地域の状況を把握することが大切だ。『連携』という言葉を重く受け止め過ぎず、子どもたちが防災を学ぶ場に地域住民を招くなど、できることから始めてほしい」

 -新型コロナウイルスの感染拡大で、地域連携に悩む学校が多い。

 「感染拡大を防ぐため、分散避難の在り方など改めて確認しなければならない課題が出ている。コロナ禍で停滞させることなく、学校や家庭、地域で議論を深めてもらいたい」

◎義務や責任法に明記を/東大院法学政治学研究科教授・米村滋人氏

 -大川小の確定判決への評価は。

 「事前防災の在り方に重きを置き、過失を認定した点に意味がある。東日本大震災の津波被害を巡る訴訟の判決は、ほぼ全てが地震後の対応に着目した。正常な判断ができない状況下での避難行動より、肝心な事前の備えの是非を検証し判断する方が、本質的で今後の防災にもつながる」

 -判決は市教委や学校の組織的な過失を認めた。

 「行政内の全く異なる部門の責任を一体的に捉えたのは珍しい例だ。義務の主体を問わない学校保健安全法を基にしたからこその判断だ」

 「教育委員会が学校に対応を丸投げし、責任を持たない旧来の学校防災ではいけないと問題提起した。判決は、組織全体として連絡や調整を図りつつ、適切な災害対応をすべきだと示している」

 -確定判決を受け、行政の組織的過失を指摘する動きが他の訴訟に広がった。

 「個人でなく、組織の責任を追及することが事故予防につながるという考え方は、過去に医療事故の議論で見られた。各人が知識や経験を持ち寄る災害対応は、まさにこれに当てはまる例で、組織の過失と捉えることは理にかなっている」

 「役割が重い個人の法的責任を問うことも大切だ。事案の性質を踏まえ、責任追及と再発防止のバランスを考える必要がある」

 -震災関連の一連の津波訴訟が終結した。

 「津波訴訟は震災後にできた訴訟の類型で、裁判所は防災に関する法律の明確な規定がない中で判断してきた。行政や学校に求められる防災の義務や責任の範囲は、法律の条文に記されることが望ましい。防災への社会的関心が集まる中、市民レベルの議論の高まりが第一歩になる」