8月27日午前11時半、盛岡市菜園のレストランで爆発が発生した。40人死亡、うち15人は外国人-。

 「遺族に間違いなく遺体を渡せるよう証拠は全て写真に撮って」。遺体安置所に見立てた教室に、岩手医大准教授熊谷章子さん(51)=盛岡市=の声が飛ぶ。

 災害想定と同じ日の午後、歯学部5年の32人が、市内の岩手医大内丸メディカルセンターで、災害時の身元確認の方法をワークショップで学んだ。検視官、鑑識、医師、歯科医、遺族対応をそれぞれ分担。遺体を模した人形や口腔(こうくう)模型から特徴を読み取った。

 熊谷さんは、警察協力歯科医として東日本大震災の犠牲者の身元確認に携わった。震災当時に起きた遺体の取り違えを防ぐ。言葉の端々に覚悟がにじむ。

 ベルギーに1年間留学して学んだ世界標準の身元確認の方法を、学生に余すことなく伝える。外国人のカルテと照合できるよう国際刑事警察機構(ICPO)形式で、遺体の状態や所持品の情報を約40分かけてまとめさせた。

 岩手医大は2017年、法医学講座に「法歯学・災害口腔医学分野」を加えて法科学講座に改編した。新分野を担当する熊谷さんは、ワークショップ形式の授業に力を入れてきた。

 学生たちに専門以外の役割を体験させるのは「安置所で遺体に関わる職種は多岐にわたる。歯科医はその中の一人だと理解してもらいたい」との理由からだ。

 大事な狙いがもう一つある。

 震災直後、医師や歯科医らは想像を絶する状況で使命感を持って身元確認に当たった。だが過酷な現場で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が出た人は少なくない。

 岩手県住田町などで活動した県歯科医師会常務理事の狩野敦史さん(66)=岩手県花巻市=は「遺体が無造作に置かれた安置所をいまだに思い出す。就寝中にうなされ、叫んだこともある」と打ち明ける。

 災害で多くの犠牲者が出ると、警察は地元の医師や歯科医に協力を求める場合が多い。災害対応の教育を受けているかどうかに関係なく、声を掛けられれば協力しなければならない。

 「安置所がどんな状況なのか想像できれば、精神的な負担は減らせるはず」

 熊谷さんは、学生が現場感覚をつかむことに重点を置く。授業では実際に遺体の口の中を撮影した写真を使用。県の災害訓練では、現役の歯科医と一緒に口腔内の検査をさせている。

 歯学部5年の大黒英莉さん(23)は「学生のうちに身元確認の一連の流れを学べる機会は貴重だ。将来は責任を持って役割を果たしたい」と話す。

 災害対応の授業は、遺体に見立てた人形を納体袋に入れ、所持品と一緒に安置して終了した。「歯科所見を記録し、遺族に渡すまでが歯科医の責任。それを忘れてはならない」

 犠牲者と遺族のため、身元確認に最善を尽くしてほしい-。あの日の悔しさを胸に刻み、強い思いで教壇に立つ。(坂本光)