<日本シリーズで星野仙一さん率いる東北楽天は3勝2敗で第6戦を迎えた。勝てば日本一の試合に先発したのは無敗のエース田中将大投手。だが、その田中投手がまさかの4失点と乱れ、不敗神話が崩れた>

◎全員大ショック

 あのとき将大が160球投げたゲームを落とした。絶対勝つと皆さん思ったでしょう、将大ですから。この年、24勝0敗。1回も負けていないんだから。
 100球ちょっとのときに将大に「代われ」と言いました。ところが将大は「最後まで投げさせてください」「おまえ、もう120球も投げたから代われ」「いや監督、最後まで投げさせてください」
 そのときピンときた。こいつアメリカに行きたいと言っていたな。東北のファンに本拠地で最後の投球、最後のゲームを見てもらおうと考えたんだな。「分かった、行け」と言った。結局、負けて、私も選手もファンも大ショック。選手もファンも「田中だから日本一になれる」と思っていたのだから。神様、仏様、田中様じゃない。田中も人間なんですよ。
 試合後にインタビューがありました。精いっぱいの強がりを言った。「皆さんよかったな、田中の負けを初めて見られたぜ。ラッキーだぜ。以上」

 <田中投手で敗れ3勝3敗。形勢は逆転し、シリーズの行方は巨人有利に傾いたかに見えた>

◎自然に出た大声 

 その後、ロッカールームで反省会があった。インタビュールームからロッカールームまで1、2分。何と声を掛けようかと思いながら入ると、選手もコーチ陣もうつむいていた。「おい、ありがとう」と僕は言った。みんなが僕の顔を見ました。「このおっさん、何言っているんだ。負けたのに」といった表情で。
 僕は続けました。「だってそうだろう。ジャイアンツという王者相手に3勝3敗で最後の7戦までいけるなんて、おまえら素晴らしい。俺はこんな選手を持って誇りに思う」「田中も人の子だったんだよ。みんなの頑張りで7戦目までこられた。野球人生、素晴らしいじゃないか」
 言葉の流れで「よし、明日はもう負けてもいい」と言ってしまった。「しまった」と思いましたが。
 「でも勝ちたいよな。田中の敗戦という今のショックを、あすのゲームまでにどう切り替えるかだ。切り替えたら、おまえらの力なら絶対勝てる。切り替えるぞ」と言ったときに、全員が「よっしゃー」と大声で言ったのです。「分かったか」とも言わないのに。自然に出た声でした。それで僕は自分の部屋に帰った。「いける」と思いました。