<日本シリーズ第7戦。星野仙一さん率いる東北楽天は最終決戦で3-0とリードを奪い、七回から則本昂大投手が登板した>

◎すごい球に決断

 田中(将大投手)がベンチで僕の前をうろうろするんですよ。七回ぐらいに。「おまえ、座っとけよ。きょうは登板ないんだから」
 すると佐藤義則投手コーチが「いやあ監督、あれは投げたいんですよ」と言う。「ばかなこと言うんじゃないよ。きのう160球も投げているんだから、投げさせるわけにはいかないよ。そんなに投げたいならキャッチボールでもさせとけ」という感じでした。
 則本は完璧に抑えている。あのまま則本でよかった。ところがブルペンから森山良二投手コーチが来て、ささやく。「田中いいですよ」。「本人はどう言っているの」と聞くと「きのうより調子いいと」「そんなわけないだろ」。僕はピッチングコーチにだまされていたんですよ。やっぱりコーチも「最後は田中」と思っていました。
 2点差ならそのまま則本に投げさせた。けれど3点差あった。リーグ優勝も、クライマックスシリーズも田中で締めくくった。日本シリーズも田中で締めくくった方が、東北楽天の歴史をひもとくときに物語になるのかな、絵になるのかな、と。監督は演出もしなくちゃいけない。
 ベンチにあるブルペンのモニターを見たら田中がガツーン、ガツーンとすごい球を投げている。きのう、こうやって投げとけばいいのにと思いながら「よし、田中でいこう」と決めました。

 <八回裏の攻撃が終わると、星野さんがベンチを出た。球場が異様な雰囲気に包まれる>

 審判の所に行ったら「代えるんですか? 誰に代えるんですか」とびっくりした顔をしている。「ほっといてくれ」。審判も田中はないと思っていた。
 そこで「田中やー」と言った。

 <渾身(こんしん)の15球。九回、田中投手は最後の打者を三振に切って取る。星野さんは9度、宙に舞った>

<被災地が後押し>
 よく、胴上げされた気分はどうでしたかと聞かれるが、うれしいと思わない。ゲームセットの瞬間から「良かったー」とほっとした気持ちだけ。みんなと抱き合っているときも、胴上げのときも。

 <日本一になった11月3日は、くしくも東日本大震災が起きた3月11日をひっくり返した日付だった。巨人ファン以外、野球に関心がない人も、みんなが東北楽天を応援しているかのようだった>

 あのときは不思議な力があるんだなと感じました。被災地の方や全国の皆さんがわれわれを勝たせるよう背中を押してくれました。