東日本大震災の津波で岩手、宮城、福島3県の高齢者入所施設が少なくとも59カ所被災し、高齢者と職員計578人が死亡、行方不明になったことが各自治体や施設への取材で分かった。多くの施設は海に臨み、景観の良い立地が裏目に出た格好だ。海辺に立つ高齢者施設は全国的に多く、避難対策や立地条件の見直しが急務となる。(藤田杏奴、野内貴史)

 各自治体や施設が2011年10月から12月にかけてまとめた施設の被災状況は表の通り。
 最大の被害を受けた宮城県で津波による被災施設は全壊32、半壊7、浸水8の計47施設。入所者の死亡、行方不明は323人、職員は66人を数える。岩手県では8施設が全半壊の被害を受け、死亡、行方不明は入所者137人、職員15人。福島県は4施設が被災し、入所者36人、職員1人が死亡した。
 施設の種類別では特別養護老人ホーム(特養)の被害が突出、犠牲者の4割を占めた。特養の入所者は要介護度が高い上、50人以上が暮らす大規模施設も多く、避難に時間を要したとみられる。
 半島の付け根にあり、海岸に面する介護老人保健施設「シーサイドかろ」(岩手県山田町)は2階屋根まで水をかぶり、3県で最多の88人の犠牲者を出した。入所者96人のうち61人が死亡、13人の行方が分からない。職員も48人中12人が亡くなり、2人が不明のままだ。
 このほか、死亡・不明の入所者が多い施設は特養では「さんりくの園」(大船渡市)62人、「不老園」(東松島市)56人、「慈恵園」(宮城県南三陸町)49人など。養護老人ホームは梅香園(同県山元町)で43人、介護老人保健施設はリバーサイド春圃(気仙沼市)で59人が犠牲になった。
 福島県では老人保健施設「ヨッシーランド」(南相馬市)と併設グループホームの2施設の入所者が計36人亡くなった。
 被災施設のほとんどが海沿いに立ち、避難が間に合わず、施設内で津波に襲われたケースが目立つ。不老園など複数の施設では避難中に車ごと津波に巻き込まれたり、たどり着いた指定避難所が浸水したりして被害が拡大した。津波を逃れた後、避難所で十分な手当てを受けられず、低体温症などで亡くなったケースもある。
 津波に襲われながら、犠牲者が出なかった施設もある。特養「恵心寮」(気仙沼市)は1階がほぼ冠水、全壊したが、入所者70人全員を2階へ避難させ、無事だった。
 昨年2月のチリ大地震津波の際、避難所への移動に1時間かかった経験から「間に合わない」と即断したという。施設側は「避難所に向かっていたら半数は津波に巻き込まれていただろう。2階まで水が来なかったことも幸いした」と話す。

<安全考慮し高台に建設を/震災による高齢者施設の被災状況を調べている烏野猛びわこ学院大准教授(社会保障法)の話>
 これまで高齢者施設は行政が用意した風光明媚(めいび)な場所に建てられることが多かった。今後は都市計画の段階から優先して立地を考慮し、高台など安全な場所に造るべきだ。
 中でも特養は要介護度が高く、自力の避難が難しいお年寄りが多い。避難先は従来の学校よりも、医療器具や薬がそろった近隣の特養など高齢者施設が望ましい。他の施設と平時から絶えず連携を図る必要がある。ライフラインが断たれ、孤立した際の備えも重要だ。
 災害時、限られた職員で高齢者を迅速にどう避難させるかは、全ての施設にとって喫緊の課題。車いすごと運ぶのか、1人で背負うのか。要介護度が高い人と低い人、どちらを優先すべきか。今後に備え、効率的な避難方法を研究しなければならない。=2011年12月13日河北新報
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 東日本大震災の直後から、被災地で暮らす市民の課題を取り上げた河北新報連載「焦点」。震災7年の節目に、発生翌年までの主な記事をまとめました。
=肩書や年齢は掲載当時のものです。=