10代の子どもたちが、「あの日」を語り始めた。幼かった頃に東日本大震災を経験し、7年がたった。当時は表現できなかった震災への思い、未来への希望。風化に抗い、復興へ進む地域のこれからを担う世代の声に、耳を傾ける。

◎「釜石の出来事」当事者/自身をモデルに紙芝居/釜石の高校2年 佐野里奈さん(17)

 兄と妹の迫真のやりとりに子どもたちが引き込まれた。
 「すぐそこまで波が来てる! このままじゃ危ない!」「本当? じゃあ逃げなくちゃ!」

<同級生と制作>
 岩手県釜石市鵜住居(うのすまい)小で2月27日、4年生33人を対象に防災講座が開かれた。講師は釜石高2年の5人。佐野里奈さん(17)は、東日本大震災の津波避難を紙芝居で紹介した。
 主人公の「ななちゃん」は当時、鵜住居小4年だった佐野さん自身がモデルだ。隣接する釜石東中にいた兄に手を引かれて高台に逃げ、避難所で数日過ごした後に家族と再会するまでを描いた。
 子ども向け防災講座は昨夏、大学生と一緒に自分たちができる地元貢献について考えたのを契機に実現した。佐野さんは同級生と紙芝居の制作に取り組んだ。
 「今の小学生は震災の記憶があまりない。年齢の近い私たちが実体験を話すことで風化を防ぎたい」
 過度に怖がらせないよう直接的な津波の表現は避ける。だが、家族の避難を信じて自分も逃げる「津波てんでんこ」の大切さは伝えたい。徹底的に内容を吟味した。
 釜石市内の小中学生約2900人のほとんどが無事だった避難行動は、震災直後から「奇跡」と称賛された。一方で欠席するなどした5人が亡くなっており、市は現在「釜石の出来事」と言い表している。
 佐野さんも「学校にいて、先生の指示があって避難できた。下校中や帰宅後だったら、どうなっていたか分からない」と振り返る。実際は危機と紙一重だったからこそ、災害時は自分で状況を判断して身を守る力を付けて欲しいと願う。

<楽しみながら>
 あれから7年。被災した友人も多く、これまで学校では震災の話題を避けてきた。家族も自宅も無事だった自分が語り部となることにためらいもあった。
 それでも再建途上の古里を前に「誰かが震災の記憶をつないでいかなくてはならない。防災意識を高め、家族や友達と安心して住めるまちであってこその復興だ」と決意した。同世代に語り継ぐ仲間が出てくることへの期待も込めて-。
 防災クイズを交えた45分間の講座はあっという間に終わった。「楽しみながら『津波てんでんこ』が大事だと分かってもらえた。今日の出来は100点」。紙芝居を「後輩」たちに贈呈する表情は、晴れ晴れとしていた。
(釜石支局・東野滋)