戦後日本に価値観の転換を迫った東日本大震災を踏まえ、次世代に引き継ぎたい東北像を探るフォーラム「東北の道しるべin福島」(河北新報社主催)が3日、喜多方市の大和川酒造店「昭和蔵」であった。河北新報社が創刊120年を記念し、昨年1月に発表した6項目の「東北の道しるべ」のうち、「エネルギー自治」をテーマに意見を交わした。ドキュメンタリー映画「おだやかな革命」の鑑賞とパネル討論を通じ、エネルギー源の分散立地、循環型経済による地域再生に向けた「自治」の在り方を語り合った。

◎パネリスト
 会津電力(喜多方市)   社長 佐藤弥右衛門氏
 ひっぽ電力(宮城県丸森町)社長 目黒忠七氏
 ドキュメンタリー映画監督    渡辺智史氏
<コーディネーター>
 河北新報社常務         鈴木素雄 

◎「おだやかな革命」製作の思い

 -「おだやかな革命」という映画のタイトルに込めた思いは。

 渡辺 「3・11」を受けて私自身がどう生きたいかということを考えながら、カメラを回した。ご当地電力会社や市民が始めたエネルギー事業を取材し、革命的とも呼べる大きな転換が始まっていると感じた。一方、国会議事堂前での原発反対運動に見られた急進的な動きは一時的には盛り上がるが、なかなか持続しない。ご当地電力のように、地に足を付けて「大切なものは何か」ということを議論し、じわじわと周りの共感を得る「おだやかさ」が必要だと思い、タイトルを決めた。
 登場する人物や地域は、右肩上がりの経済成長時に忘れられた自然や地域コミュニティーという懐かしい価値観をベースに、これからの社会を考えていた。地域は違っても根幹は同じであることに感銘を受けた。

 -佐藤氏は映画に「主役級」で登場している。

 佐藤 大和川酒造店は私で9代目。226年、この地で水をくみ、この地のコメで酒を造ってきた。渡辺氏から映画を撮りたいと聞いた時、会津の美しい風景から始まるストーリーにしてほしいと思った。グローバリゼーションが進み、地球の裏側の情報まで24時間入ってくる状況に、地域がのみ込まれている。映画を見て、地域には地域の時間が流れていることを大事にしたいと感じた。

 目黒 48歳で脱サラし、竹炭や竹酢液を作って販売してきた。好調でようやく私の時代が来たなと思っていたら、震災に遭った。映画では全国の地域が共通して抱える少子高齢化を逆手に取り、生き生きと暮らしている姿が描かれている。昔はどこにでもあったのに、今は忘れ去られていることを思い出させてくれた。

◎ご当地電力の広がり

 -会津電力の設立経緯は。

 佐藤 東京電力福島第1原発事故が起こり「まずいぞ、これは」と思った。原爆が投下された広島や長崎の光景、チェルノブイリ原発事故などが脳裏をよぎり、山や田畑、水が放射能に汚染され、酒造りの商売もコミュニティーも全部無くなると、本当に恐怖だった。
 事故後、地域で自然エネルギーの勉強会があり、これから私たちは何を選択し、どう生きていくべきか話し合った。見渡せば、会津には只見川や猪苗代湖などの立派な水源があり、500万キロワットの発電能力があった。売電すれば地域の行政予算をはるかに上回る金額になるが、現状は電力会社に全部取られている。これを返してくれれば、国から地方創生と言われなくても、会津は勝手に自然エネルギーで生きていける。そもそも、ここに降った雨や雪は会津のものだろうと。「行動しなければ、やられっぱなしになる」という話になり、会津電力を設立することを決めた。現在は太陽光を中心に70カ所で5200キロワットを発電し、生活クラブ生協系の「生活クラブエナジー」に供給している。

 -ひっぽ電力はどのような設立経緯か。

 目黒 丸森町筆甫地区は福島県に隣接する中山間地。農山村は全国どこも同じだろうが、木材価格の下落などで農家の収入が減り、高齢者の貧困が深刻化している。そこに原発事故の放射能汚染が追い打ちを掛けた。まさに、泣きっ面に蜂という状態だった。
 電気の自給自足は事故前から考えていた。住民7人でひっぽ電力を設立。当初は汚染された木材を使って発電しようと考えたが、難しかった。まずは太陽光発電から始め、風力、小水力、バイオマスを勉強する。

 -ご当地電力の広がりをどう感じているか。

 渡辺 地方の視点で言えば、自然エネルギー事業は地域外の企業に売電利益を持って行かれ、環境やコミュニティーを破壊される危険もあるため、おのずと「自治」の考え方が広がっている。一方、都市の視点からすると、ご当地電力会社から電気を買うことにより、結果的にその地域を応援することにつながるため、「地域を応援する電気の買い方」として消費者に共感が広がっている。

◎行く手を阻むもの

 -エネルギー自治の行く手を阻むものは何か。

 佐藤 日本では自分たちのことは自分たちでやるという意識が薄くなってしまっている。「コストのロスをなくせ」「合理性を追求しろ」という考えに立つと、何でも他人任せになる。自分たちでやらないから、自分たちが持っていたはずの資源を東京や大手企業に独占され、奪われてしまう。水や食料と同じで、エネルギーは本来、独占されるべきものではない。
 日本人はどうして自治能力をなくし、弱くなってしまったのだろう。それを食い止める最後のチャンスが今だ。自分たちが自分たちの使うエネルギーを作り出すという意識を取り戻し、再生可能エネルギーに切り替えていけば、地域全体が自立に向かうだろう。

 目黒 これまで14カ所に太陽光パネルを置いてきたが、問題は優良農地として整備保全する「農業振興地域」に指定されている土地を利用できないことだ。農振地域としての役割はもう終わっている土地でも、パネル用地に使えない。
 「畑が空いた、無償でパネルを置いてくれ」と所有者が言っても農振地域という理由で駄目。80代や90代の独り暮らしの高齢者がもう農作はできないと言っても、その農地が使えるわけではない。こうした農振地域は見直しをかけて、有効利用していった方がいい。そうしないと農山村の疲弊に拍車が掛かってしまう。

 渡辺 「誰かがやってくれる」「自分は金を払ってサービスを得ればいい」という無関心な消費者意識が課題だ。自分たちの命を支えてくれるものを守るために金を出すというのが新しい経済の在り方で、その動きはもう始まっている。顔の見える関係の中で、志が感じられて血が通った金の流れをつくっていくことで、今までとは違う経済を生み出せる。その筆頭にエネルギー自治がある。
 自然環境を守ることに反対する人はいない。生き方や価値観を変える、その一つとして再生可能エネルギーを選択しようという語り口にしていけば、より多くの賛同を得られるはずだ。

◎確立を目指して

 -エネルギー自治を通して、どのように地域社会と関わっていくか。

 目黒 地域に利益を還元しようと考えて始まったのが「ひっぽ電力」だ。筆甫地区で最も必要とされる分野に利益を充てていきたい。おそらく福祉や後継者の育成、有害鳥獣の駆除といったものになるだろうが、まだ決めていない。
 再生可能エネルギーがどのようなものか、小学生らに知ってほしいとも考えている。余っている中古の太陽光パネルを使って、遊び感覚で勉強してもらえたらいい。

 佐藤 地域のいろんな課題の解決に売電益を使っていく。例えば山麓に開墾したのに使われていない畑がある。そこにブドウを植えて、ワインにしようとしている。人を呼び込み、活性化になるならそれでいい。また、会津地方の7割は森林で、豊かな資源があるのに埋もれている現状がある。木材を切り出し、ペレットなどにして、山を動かしていきたい。
 無い物ねだりはしない。でも地域の資源は自分たちで生かしていく。東京の基準に合わせる必要はない。地域のサイズと時間の流れの中で、地域おこしをデザインしていきたい。

 渡辺 社会全体の価値観が今、大きな転換期を迎えている。自分たちの暮らしを自分たちでつくるという動きが始まりだしている。東北は、地域資源を使ったエネルギー自治という切り口でスタートするとインパクトがあると思う。
 エネルギーから得た金が、空き家対策や若者の地域定着など身近なテーマに向かえば、地域の共感を呼ぶし、物語もできていく。小さな規模でいいから、自分たちで何かをやってみる。そういう他人任せではない取り組みがたくさん生まれていってほしい。

◎聴講者に聞く

<地域おこしの手段>
 自然エネルギーはそれ自体が目的ではなく、地域をおこすための手段である。(仙台市青葉区・自営業・60代男性)

<自立には経済循環>
 住民が誇りを持てる自立したまちづくりには、地域内の経済循環が必要だ。(山形県飯豊町・地方公務員・50代男性)

<資産に自信持って>
 東北は素晴らしい資産がある。次代を担う子どもたちは自信を持ってほしい。(福島市・自営業・60代女性)

<役割果たす責任を>
 「誰かがやるだろう」ではなく、一人一人が役割を果たさなければいけない。(宮城県大和町・会社員・40代男性)

<地産地消が必要に>
 水も食料もエネルギーも地域で生産し、消費することが必要になっている。(郡山市・団体役員・50代男性)

<原発は廃止すべき>
 水、空気、山は大切な資源。これを汚してしまった原発は早く廃止すべきだ。(会津若松市・地方議員・60代男性)

◎東北の道しるべ
・「東北スタンダード」を掲げよう
・「2枚目の名刺」を持とう
・「自然と人間の通訳者」を育てよう
・「共創産業」を興そう
・「エネルギー自治」を確立しよう
・「INAKA(いなか)を世界へ」広めよう

 戦後日本に価値観の転換を迫った東日本大震災を踏まえ、河北新報社は創刊120年を迎えた2017年1月17日、次世代に引き継ぎたい東北像として「東北の道しるべ」を発表しました。災後の地域社会をどう描くのか。課題を掘り下げ、道しるべの具体策を考える特集を随時掲載します。
 「東北の道しるべ」へのご意見、ご感想、情報をお寄せください。連絡先はファクス022(211)1161。michishirube@po.kahoku.co.jp