「『放射光って、利用したら得するの?』。そう疑わず、ぜひ試してほしい」
 東京都内で4月にあった次世代型放射光施設の企業向け説明会。精密加工のティー・ディー・シー(宮城県利府町)の赤羽優子社長が講演し、中小企業の不安を払拭(ふっしょく)するように語った。
 同社は金属の研磨技術が評価され、大型放射光施設のスプリング8(兵庫県佐用町)に部品を納入。しかし赤羽氏は当初、効果に懐疑的だった。
 考えが変わったのは、試しにスプリング8を実際に利用してから。ナノ(10億分の1)レベルの技術で同様に磨いたはずの2種の金属に、研磨精度のわずかな違いが見つかった。赤羽氏は「中小企業も自社の強みをさらに磨ける」と話す。

<なじみ薄く>
 東北大青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)に整備する次世代型施設で、東北の産学官はビームライン10本のうち5~7本を1口5000万円の施設利用権付き出資で建設。中小企業向けに1口50万円で利用時間の短い枠も設け、既に35社が応じる方針を決めた。
 国内には現在9カ所の放射光施設があるが、東北では仙台の次世代型が初めての施設になる。放射光施設は地場の中小企業になじみが薄い。
 佐賀県の放射光施設のビームライン設計に携わった秋田県産業技術センターの近藤祐治主任研究員は「放射光施設を使う材料開発は中小企業にはハードルが高いが、製品不良の原因特定なども可能になり製造工程を見直せる。地域に理解を広めなければならない」と語る。

<行政工夫を>
 東北大は施設の周囲にサイエンスパーク(4ヘクタール)の建設も計画。自治体は企業の研究開発拠点や工場の集積を期待するが、不安材料もある。
 スプリング8を含む一帯は兵庫県が「播磨科学公園都市」として整備した。県は実験結果やデータを分析する研究開発型企業の進出を見込んでいたが、開設から20年がたった現在は放射光と関係のない工場ばかり並ぶ。
 想定外の現状を招いた原因は、インターネットの急速な進展にあった。ネットで膨大なデータのやりとりが可能になり、施設近隣に研究開発拠点を置く必要がなくなった。山間部というアクセスの悪さもマイナスとなった。
 一方、仙台の次世代型施設は交通の利便性が極めて良い。国と共に整備運営を担う光科学イノベーションセンター(仙台市)は海外の企業集積の事例を挙げながら「研究開発環境が整っていれば企業はやがて集積する」と言う。
 施設を利用したり、周辺に進出したりする企業を支援するためには自治体の工夫も欠かせない。仙台市は施設利用権付き出資を5億円分取得し、地元企業に利用権を分割付与する方針を決めた。
 文部科学省が2019年度に事業化すれば、次世代型施設は22年にも稼働することになる。課題解決に残された時間は長くない。

[施設利用権付き出資]次世代型放射光施設の建設費360億円のうち、地域や企業が負担する最大約170億円を確保するため光科学イノベーションセンターは10年間、年200時間ずつ利用できる1口5000万円の出資を募っている。東北経済連合会が公募する「フレンドリーバンク」は1口50万円で年2時間だが、光が強力な次世代型は既存施設の100分の1の時間で分析が済むため効果を期待できる。