2019年。世界的クリエーターの大友克洋さん(64)=宮城県登米市出身=が1980年代に手掛けた漫画「AKIRA」の舞台となった日本に、私たちはようやく追い付いた。作品が示唆した未来は現実と奇妙な符合を見せる。私たちに何を問い掛けているのか。東北の視点で考える。
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 高さ50メートルの楕円(だえん)のスタジアム内から大型クレーン群のアームが空へ伸びる。出入り口にはタンクローリーやダンプが列をなす。師走の東京・神宮外苑で、新国立競技場の建設が急ピッチで進んでいた。2020年東京五輪・パラリンピックの主会場として今秋完成する。
 「AKIRA」も、20年に東京五輪が開かれる設定だ。新競技場は物語で第3次世界大戦からの、現実では東日本大震災からの、いずれも「復興」の象徴に位置付けられる。

◆不安だらけ

 同じ頃、新競技場から北へ約500キロの陸前高田市で、広大な更地に冷たい海風が吹き付けていた。更地は11年3月11日、15メートル超の津波に襲われるまでは市街地だった。
 あちこちで小型のショベルカーがせわしなく動き回る。土地のかさ上げが、ようやく仕上げの段階に入った。
 陸前高田市の市街地区画整理事業と新競技場建設にかかる費用は、共にほぼ1500億円。どちらのプロジェクトも復興への国の威信を懸けたはずだった。
 「あっち(新競技場)は3年で完成。こっちは8年近くたっても、このありさまだ」。市建設業協会事務局長の小野寺正晴さん(64)がつぶやく。
 3年ほど前から建設部材が高騰し、入手しづらくなった。取引先の大手資材メーカーが、五輪絡みの工事を優先させているからだろう。復興作業員は2割程度足りない状況が続く。
 区画整理事業は市の復興計画が終わる21年3月までが工期。とても完了しそうにない。そして、終えた先に仕事はあるのか。
 「不安だらけ。五輪? そんな気分になれないでしょ」。小野寺さんは薄笑いを浮かべた。

◆自分なりに

 新競技場の建設は国産材の使用が一つの売りだ。宮城県南三陸町の木材は15年10月、環境に配慮した森林管理を促す森林管理協議会(FSC)の国際認証を受けた。「優先的に使ってもらい、復興を世界にアピールしたい」。そんな町の期待は外れた。
 設計側が「47都道府県から木材を調達する」方針を打ち出したからだ。手に入りやすい同じサイズの建材を使った方が、工事は確かに安上がりで早い。
 震災で多くを失う中、町の森は残った。「復興は山から進めたい」との思いで国際認証を取得した。FSC材を扱う町内の林業家佐藤太一さん(34)は「被災地の森の姿に思いをはせられるような使い方をしてほしい」と願う。
 「AKIRA」の最終盤。新競技場は超能力が目覚めた鉄雄と少年アキラを巡る決着の場となり、五輪を迎えることなく大破する。現実の新競技場は、後世に残るレガシー(遺産)になるのだろうか。
 「せめて持続可能な森林から木材を使うことが常識になればいい」。佐藤さんは自分なりに、五輪に意味を見いだそうとしている。

◎「AKIRA」粗筋

 1982年、東京で「新型爆弾」がさく裂したのをきっかけに、世界大戦が勃発。廃虚となった東京は復興を遂げ、2020年の東京五輪を迎えようとしていた。前年の19年、主人公・金田の暴走族仲間の鉄雄が軍の研究機関に連れ去られ、超能力があることが確認された。同様の超能力を持つアキラは冷凍施設で長年厳重に封印され、金田らは「新型爆弾」がアキラの覚醒によるものだったことを知る。さまざまな思惑でアキラを奪おうとする者たち同士の争いが起こり、そのさなかにアキラが覚醒し、再び東京は壊滅。無政府状態となった東京で鉄雄はアキラに匹敵する超能力を持ち始め、暴力による支配を拡大。立場の違う者たちの間で2人の抹殺が共通目的になる。超能力を制御できず化け物のように変貌した鉄雄は、意図的に覚醒させられたアキラの力に吸収され、2人とも消滅する。平静さを取り戻した廃虚の東京で、金田と仲間たちは自分たちの「国」を掲げ、既成の秩序を拒みながら未来へと走りだす。