2019年。世界的クリエーターの大友克洋さん(64)=宮城県登米市出身=が1980年代に手掛けた漫画「AKIRA」の舞台となった日本に、私たちはようやく追い付いた。作品が示唆した未来は現実と奇妙な符合を見せる。私たちに何を問い掛けているのか。東北の視点で考える。
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 青空と白雲を思わせる塗装の外壁が残るのは、炉心溶融による水素爆発を免れた2号機のみ。1、3、4号機は無残な痕跡を巨大な鉄骨やコンクリート、パネルで覆う。
 昨年11月、東京電力福島第1原発。東日本大震災で史上最悪レベルの原子力事故が起きた現場は落ち着きを取り戻したようにも見えるが、建屋内は今も極めて強い放射線が飛び交う。
 首都圏を支える電力供給基地から「国家的お荷物」へ。「現在の姿から想像できないかもしれませんが、ここは発電所でした」。同行の東電社員が自嘲気味に説明する。
 漫画「AKIRA」には超能力で東京を壊滅させた少年アキラを地下で冷凍保存し、厳重に封印する巨大な装置が出てくる。装置を前に登場人物はつぶやく。「怖くてたまらずに覆い隠したのだ…文明も科学もかなぐり捨てて」
 覆いの下に、いまだ人間の手に負えない内実を抱える福島第1原発が重なる。

◆高まる意識

 原発から西に約55キロの郡山市。「AKIRA」という名の雑貨店がある。途上国の農産物や製品を適正価格で買って支援するフェアトレードの商品が売りだ。店主の文屋瑞穂さん(50)が「漫画は知っていますが、父の名前が店名の由来です」と言う。
 東京都での会社勤めなどを経て2006年、故郷の郡山でフェアトレード商品を扱うカフェを開いた。東京暮らしで肌荒れがひどくなり、体に優しい食品や製品を探すうち、フェアトレードに目覚めた。
 原発事故後、半月ほどで店を再開したが、「お客がほとんどいなくなった」と振り返る。店に足を運んでいた人の多くが自主避難や転居で郡山を去った。
 今は雑貨一本で、福島県産の有機栽培食品も並ぶ。宮城県や栃木県などからも時々、客が来る。
 周囲には今でも地元産品を買わない人がいる。人々の「意識」は善かれあしかれ格段に高まった。「みんな放射能にばかり神経質になるけれど、農薬や化学肥料にだって無関心でいられない」。意識が他のことにも向いてほしいと願う。

◆求める思い

 「状況は統御されている」。20年夏季五輪・パラリンピックの開催地を東京に決めた13年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会。東京への支持を求める安倍晋三首相は、当時深刻さが増していた福島第1原発の汚染水問題にあえて触れ、こう見えを切った。
 原発敷地内には今、放射性物質を完全には除去できなかった水をためる最大容量1200トンのタンクが約900個並ぶ。その数は10日ほどで1個ずつ増える。貯蔵能力には限りがあるが、海への放出は地元が反対している。
 昨年11月、台湾は福島など5県産のほぼ全食品の輸入規制を続けることを住民投票で決めた。どこよりも厳しい検査を経て出荷される福島産は、何よりも安全なはずだ。それでも、安心を求める人々の思いは制御できない。

◎「AKIRA」粗筋

 1982年、東京で「新型爆弾」がさく裂したのをきっかけに、世界大戦が勃発。廃虚となった東京は復興を遂げ、2020年の東京五輪を迎えようとしていた。前年の19年、主人公・金田の暴走族仲間の鉄雄が軍の研究機関に連れ去られ、超能力があることが確認された。同様の超能力を持つアキラは冷凍施設で長年厳重に封印され、金田らは「新型爆弾」がアキラの覚醒によるものだったことを知る。さまざまな思惑でアキラを奪おうとする者たち同士の争いが起こり、そのさなかにアキラが覚醒し、再び東京は壊滅。無政府状態となった東京で鉄雄はアキラに匹敵する超能力を持ち始め、暴力による支配を拡大。立場の違う者たちの間で2人の抹殺が共通目的になる。超能力を制御できず化け物のように変貌した鉄雄は、意図的に覚醒させられたアキラの力に吸収され、2人とも消滅する。平静さを取り戻した廃虚の東京で、金田と仲間たちは自分たちの「国」を掲げ、既成の秩序を拒みながら未来へと走りだす。