2019年。世界的クリエーターの大友克洋さん(64)=宮城県登米市出身=が1980年代に手掛けた漫画「AKIRA」の舞台となった日本に、私たちはようやく追い付いた。作品が示唆した未来は現実と奇妙な符合を見せる。私たちに何を問い掛けているのか。東北の視点で考える。
 ◇
 漫画「AKIRA」で、少年アキラを巡る闘いの結果、社会は無秩序に陥る。その中で治安維持を担ったのは「コタツがでっかいオハギ乗せて」(せりふより)走っているかのような「炭団(たどん)」と呼ばれる人工知能(AI)搭載のロボットだ。

◆揺れる銀行

 AIは現実世界でも存在感を増す。銀行員はAIに仕事を取って代わられる職業として、真っ先に名が挙がる。大手行はAIによる効率化で、数千人規模の業務量の削減方針を相次いで打ち出している。
 「仕事でのAI利用は、もはや当たり前」。仙台市の地方銀行支店に勤める男性(32)は淡々と語る。企業の融資審査の目安に機械によるランク付けが導入されるなど、地銀でも一部の業務は人の手を離れようとしている。
 軌を一にして、学生の「銀行離れ」が進む。男性が勤務する地銀の2018年度採用の応募者は、前年度から約2割減った。入行後の転職にも歯止めがかからない。
 時代の趨勢(すうせい)から目を背けようとするベテランと若手の間に意識のギャップも生まれている。「変化を嫌う上司に失望した若手が職場を去って行く」。男性は表情を曇らせた。

◆稲作を先導

 「AKIRA」で暴走する登場人物の右腕を撃ち抜いたのは、高精度の衛星測位で照準を定め、宇宙空間から放たれたレーザー砲だった。みやぎ登米農協(登米市)は18年7月、宇宙ではなく大地でのコメ作りに衛星利用測位システム(GPS)の活用を始めた。
 青々とした水田の上空約30センチを、悠然と飛び回る小型無人機ドローン。穏やかな田園風景に不似合いな飛行物体が、搭載したAIで稲の生育状況をチェックする。そこには、これまで耕作技術のよりどころだったベテラン農家の姿はない。
 「担い手不足の中、地域農業の維持には先端技術の支えが不可欠になる」と農協の担当者は言い切る。19年には人工衛星「みちびき」で誤差数センチまで精度が高まった日本版GPSを利用し、無人のトラクターによる施肥も計画する。
 政府は昨年末、AI活用の指針となる7原則をまとめた。原則の軸に据えた「人間中心」の文言は、国レベルで人とAIの共生の道を探り始めたことを示す。
 金融業界も同様だ。「AI時代のバンカーに求められるのはコンサルティング力。事業者の夢に共感し、支える力だ」。フィデア総合研究所(山形市)上席理事の熊本均さん(58)が話す。
 超低金利政策にあえぐ各行は、こぞってコンサル業務を強化する。それは利息収入減の穴埋めと同時に「人間にしかできない仕事の模索」という意味もある。
 「社会を豊かにしてきたのは、いつだって人間の夢だ。これまでは」と熊本さんは言う。45年にはAIが人間の能力を超越する「シンギュラリティー(技術的特異点)」を迎えるとされる。その時、人間はどんな夢を描いているのだろうか。

◎「AKIRA」粗筋

 1982年、東京で「新型爆弾」がさく裂したのをきっかけに、世界大戦が勃発。廃虚となった東京は復興を遂げ、2020年の東京五輪を迎えようとしていた。前年の19年、主人公・金田の暴走族仲間の鉄雄が軍の研究機関に連れ去られ、超能力があることが確認された。同様の超能力を持つアキラは冷凍施設で長年厳重に封印され、金田らは「新型爆弾」がアキラの覚醒によるものだったことを知る。さまざまな思惑でアキラを奪おうとする者たち同士の争いが起こり、そのさなかにアキラが覚醒し、再び東京は壊滅。無政府状態となった東京で鉄雄はアキラに匹敵する超能力を持ち始め、暴力による支配を拡大。立場の違う者たちの間で2人の抹殺が共通目的になる。超能力を制御できず化け物のように変貌した鉄雄は、意図的に覚醒させられたアキラの力に吸収され、2人とも消滅する。平静さを取り戻した廃虚の東京で、金田と仲間たちは自分たちの「国」を掲げ、既成の秩序を拒みながら未来へと走りだす。