北国に住む私たちにとって、雪は切っても切り離せない。暖冬の予報でも降る時には降るし、元日から雪かきや雪下ろしに追われている人もいるだろう。どうせなら雪を楽しみ、暮らしの中に生かしたい。そんな知恵や取り組みを、東北各地に探る。

 雪に覆われた坂道を登った先に、とんがり屋根の建物が現れた。岩手県有数の豪雪地帯西和賀町で雪国の暮らしを幅広く探究する「雪国文化研究所」だ。
 研究所内には、全国各地で収集したかんじきや雪にまつわる写真、関連書籍が所狭しと並んでいた。
 「雪国には昔から培ってきた知恵が残る。人間のたくましさがあるんです」。今ではただ一人の研究員となった小野寺聡さん(57)が案内してくれた。
 研究所は、独学で雪崩の研究に打ち込んだ故高橋喜平さん(1910~2006年)が所長を務めてきた。雪にまつわる随筆も数多く残して「雪博士」と慕われた雪氷学の泰斗だ。

<現場主義>
 小野寺さんは、その一番弟子。研究所開設の前から調査を手伝ってきた。
 「喜平先生は、とにかく現場を歩いた。雪国は大変だ、つらいという視点を変え、雪を資源にしたいと考えていた」と語り、師匠譲りの現場主義で研究所を守り抜く。
 「面白い形をした雪の結晶が集合体になったとき、なぜ白い雪の野原ができるのか」。高橋さんは科学者の視点で観察し、数多くの写真を残している。小野寺さんもカメラを持ち歩くが「喜平先生みたいにはなかなか撮れないね」。
 研究所は自然エネルギー活用の実験施設でもある。冬の間に蓄えた雪による冷房実験装置を開発し、木質バイオマスを燃料にしたボイラーで室内を暖める。
 近年は雪に着目した観光資産創出にも力を入れる。そんな取り組みの中から地域課題も見えてきた。

<思い共有>
 研究所には時折、観光客から雪上かんじき体験会の開催依頼が舞い込むが、町内にはかんじき作りの技術を受け継ぐ人がいなくなってしまった。
 「かんじき文化を残したい」と催した講習会には町内外の8人が参加。山から材料を探し出すところからかんじき作りを学んだ。
 自然観察指導員で写真家の瀬川強さん(64)=西和賀町=も参加者の一人だ。「自分で作ったかんじきで雪上を歩いてみたかった。地域の文化に触れる貴重な機会になった」と語る。
 16年7月から町広報で「西和賀風土記」の執筆も担当する小野寺さん。「雪国の営みや歴史の中に自然と人間が末永く共存するためのヒントがある。思いを共有できる人を増やし、次世代に伝えたい」と願う。(北上支局・布施谷吉一)

[雪国文化研究所]旧沢内村が1988年に設立し、現在は西和賀町が管理する。雪質や雪量、酸性雪、融雪水の定点観測に取り組んだ。収蔵資料などの見学は事前の連絡が必要。平日午前9時~午後5時。連絡先は0197(85)2179。