2019年。世界的クリエーターの大友克洋さん(64)=宮城県登米市出身=が1980年代に手掛けた漫画「AKIRA」の舞台となった日本に、私たちはようやく追い付いた。作品が示唆した未来は現実と奇妙な符合を見せる。私たちに何を問い掛けているのか。東北の視点で考える。

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 男鹿半島の付け根近くの秋田県五城目町。田んぼを横目に山沿いを進むと、オレンジ色のしゃれた木造の建物が見えてくる。児童数の減少で約6年前に閉校した旧馬場目小の校舎だ。若い起業家たちの拠点に生まれ変わった。

 町地域活性化支援センターが正式名称だが、誰もが「馬場目ベース」と呼ぶ。IT企業誘致を目指した町が2013年に開設。現在はデザインや金型設計、教育コンサルティングなどを手掛ける11社がかつての教室をオフィスにして入居する。

 高齢化率が全国一の秋田県で、五城目町は25市町村のうち2番目に高い。入居者の多くを20代が占める馬場目ベースは異次元か外国のようだ。

◆東京と一線

 漫画「AKIRA」は度重なる災禍で社会が混乱した末、主人公の若者たちが既成の秩序に見切りを付け、自分たちの国を立ち上げるところで物語が終わる。

 東京一極集中に歯止めがかからず、若者の東京志向は強まる一方-。馬場目ベースの住人らは漫画の若者たちのように、こうした既成概念と一線を画す。

 鹿角市出身で秋田市のデザイン会社「プロデュース・プロ」勤務の木村優希さん(23)は昨年2月、馬場目ベースにある同社のオフィスに志願して異動した。「客や取引先との距離が近く、手応えのある仕事をしたかった」のが理由だ。

 馬場目ベースは入居者間の垣根が低い。「雑談から仕事が生まれたり、取引につながったりする。週末に一緒に遊ぶことも多い」。木村さんは「公私混同」の緩やかなつながりに心地よさを感じている。

 東京都の教育コンサルタント「ハバタク」の柴田祐希さん(25)は17年秋に国際教養大(秋田市)を卒業後、馬場目ベースの同社支社で働き始めた。同級生の多くは首都圏に出たが「ベースにいる人たちが面白そうで興味を引かれた。誰と何をするかが大事。都会や大企業は考えなかった」という。

 町内の子どもたちに居場所を提供する教育施設の企画運営を担当。活動資金は英語セミナーなどを開き自力調達する。「ここでうまく運営できれば、世界中どこでも通じるビジネスモデルになるはず」と信じる。

◆魅力気付く

 皇居に近い東京・神田錦町の雑居ビルに昨年7月、店舗「風土はfood(食べ物)から」がオープンした。1階は地方の料理を出す食堂、2階はギャラリーで構成。東京で地域の食文化を結び付けようと、ハバタクなどが仕掛けた。

 スタッフの永沢碧衣(あおい)さん(24)は開店に合わせ横手市から上京した。東京から郷里を客観視したかった。「こちらに来て気付いた横手の魅力も多い」と話す。

 地元で水産会社勤務の傍ら絵画創作に打ち込み、秋田県立美術館で個展も開いた。東京への「出稼ぎ」(永沢さん)でノウハウを学び、秋田の食文化と美術を楽しめるスペースを30歳までに横手につくるのが目標だ。

 都会と田舎。過去と未来。現実と夢。若者たちは新たな価値観で、境界を軽々と飛び越えていく。