1980年代に連載された大友克洋さん(64)=登米市出身=の漫画「AKIRA」は、2019年の東京が舞台だ。近未来を描いた作品の一部は、予期していたかのように現在の事象と重なる。作品の時代背景と現実との符合の意味を、京都精華大(京都市)マンガ学部の姜竣教授に聞いた。

◆設定が「縦」
 -作品の特徴は。
 「ストーリー空間が垂直方向であることだ。東京五輪が開かれる会場を中心として地下には制御不能な少年アキラが眠り、宇宙空間からレーザー兵器が攻撃する。普通、物語は場所から場所へと横に移動する。『縦』の設定は珍しい」
 -連載時の時代背景は。
「高度経済成長が終わり、モノでなく情報を交換する経済が発達し、バブルにつながった。社会全体が高揚感に包まれる中、過去も未来もなく、従って現在もないといったポストモダン思想が流行した。物語性を必要としない社会だったとの指摘もある。そうした中で大友氏は『AKIRA』をはじめ、旺盛に物語を創作して世の中にメッセージを放った」
 「物語で描かれる東京は1980年代をほうふつとさせる。きらびやかな都心と場末の路地裏の雰囲気を併せ持ち、そこを少年たちが最先端のバイクで駆け抜ける。現在ほとんど見られなくなった都市の二面性を感じさせる」

◆偶然の一致
 -2020年東京オリンピックなど現実との符合が多い。
 「東京が舞台のSFを考えた場合、読者にリアリティーを感じさせる装置として五輪を用いた可能性はある。現実の東京五輪(1964年)から半世紀以上が過ぎれば、再び開催されてもおかしくない」
 「符合点の多さは、強いて言えば漫画の表現形式は自由度が高いから。結果的に他のメディアよりも偶然の一致が起こりうる」
 -アキラの封印装置は事故後の東京電力福島第1原発を想起させる。
 「冷凍制御しているから(冷却が必要な)原子炉が頭に浮かぶのは分かる。現実との違いは、物語では五輪施設の下にアキラを封印して東京がリスクを負っている点だ。現実は福島県や(原子力施設が集中する)青森県が担う。皮肉な言い方をすれば、作品の方が良心的かもしれない」
 「東京には機能性を求めて人が集まる。いわば遊牧民的。原発は農耕民的な営みをする場所に誘致され、事故が起きた。定住こそ正しい在り方と考える価値観を持つ人々が避難を強いられる状況になってしまった」
 -作品を読む若者に感じてほしいことは。
 「物語で子どもは特殊能力を持ち、それを利用する大人は悪者。唯一、読者が共感できるのが普通の若者たちだ。街が何度も破壊される中、若者らは飼いならされず、自らの手で新しい世界をつくろうとする。現代の若者にも、このたくましさを感じてほしい」
(この連載は若林雅人、宮崎伸一、古賀佑美、鈴木悠太が担当しました)