安倍晋三首相は2020年の改正憲法施行を掲げ続ける。今夏の参院選では争点の一つになりそうだ。表現に関わる人々に、論議の憂慮すべき点を聞いた。

 ―安倍首相は改憲を悲願とする。
 「憲法は権力者が勝手な行動をしないためにある。多くの国民が改憲を求めるなら納得するが、権力者が変えようとすべきではない」
 ―自身の憲法観は。
 「憲法制定のいきさつにじくじたる思いはある。敗戦という重い歴史があり、日本人が主体的に作ろうとした憲法ではないからだ。だが日本の識者も加わり、世界が理想とする憲法の見本のような内容になった。私たちは二度と戦争はしないと宣言し、約束を守ってきた。今の日本を誇りに思うし憲法を大切にしたい」
 ―自民党の改憲4項目は9条への自衛隊明記や緊急事態条項を盛り込んだ。
 「自衛隊は東日本大震災など多くの災害復旧に貢献し、海外では道路整備などに取り組む。改憲派は『国を守る人々がないがしろにされている』と明記を求めるが、みんなが感謝し、尊敬している。緊急事態条項も疑問だ。権力者にさらに権力を持たせ、思うように政治を動かしてほしいと願う国民はいるのか」
 「海上自衛隊の護衛艦を空母化する動きも危惧している。自衛は必要だが、こちらから出て行っては駄目だ。憲法をうまく使い『けんかはしないと約束した』と踏みとどまってほしい」
 ―作品群でほぼ唯一の戦争漫画「紫電改のタカ」(1963~64年)は戦闘機乗りの葛藤を描いた。
 「当時流行していた戦記物は戦争を格好良く描き、疑問を持った。戦没画学生の作品を集めた美術館の無言館(長野県)に行ったり、戦没学生の遺稿集『きけわだつみのこえ』を読んだりして戦争の悲惨な現実を漫画で伝えようとした」
 ―漫画誌ビッグコミックに連載中の「ひねもすのたり日記」は7歳で旧満州(中国東北部)から引き揚げた経験を描く。
 「父の親友の中国人に助けられ、家族6人ともたまたま生き残った。だが多くの人が亡くなり、さっきまで遊んでいた友達もふっと死んでしまった。人間は簡単に死ぬと戦争で刷り込まれた。私の作風にも影響している」
 ―漫画の性描写の規制など、憲法21条が保障する「表現の自由」と相対する動きをどう見る。
 「漫画や映画などは『いやらしいものや残酷な暴力シーンばかり』と文句をつけやすいが、法律で取り締まればいろんなことが縛られてしまう。黒か白かだけではなく、怪しげなダークの部分にドラマがある」
 「『あしたのジョー』(68~73年)は熾(し)烈(れつ)な闘いをし、時に残酷な目に遭っても立ち上がる人間を描こうとした。生きざまを見ずに闘いの場面だけ取り上げ、『子どもが読むのに血まみれだ』と言えば深みを失う。マスコミにも自主規制の空気が出てきたが、線を引くのは読者であり、権力者ではない。改憲と同じ。国民が主体であるべきだ」
 ―自伝「屋根うらの絵本かき」の冒頭は東日本大震災のがれきを描写した。映像が引き揚げ体験の記憶を呼び覚ました、とある。
 「引き揚げ船に乗り、博多港に向かった。島々の緑や海の青が美しかったが、街はがれきだらけで色を失っていた。おじの家を探しに行った東京・世田谷では国会議事堂が遠くに見え、墓石のようだった。震災の映像を見て思い出した」
 ―戦争も震災も多くの人が亡くなった。
 「戦争は子どもやお年寄り、女性ら弱い人から死んでいく。満州から引き揚げる時、うつむいて歩いていたら『頑張れ』と何度も声を掛けてくれたおじいさんがいた。おじいさんは翌日、亡くなった。私が『おじいちゃんも頑張れ』と励ませば助かったのかもしれないと思った」
 「生き残った人は自分を責める。津波に家族がさらわれた人はどんなに傷を負ったか。『生き残ってよかったのか』とつらい思いを抱え、生きてきた。励ましていいのか分からないが、私たちは3・11を忘れていない。どうか気を強く持ってほしい」
(聞き手は東京支社・片山佐和子)