安倍晋三首相は2020年の改正憲法施行を掲げ続ける。今夏の参院選では争点の一つになりそうだ。表現に関わる人々に、論議の憂慮すべき点を聞いた。

<人生の充実重視>
 -安倍晋三首相は2020年の改正憲法施行を掲げ続ける。
 「安倍氏による改憲には反対だ。私は作家として、人間一人一人の人生の充実を重視する。理想の国家像を押し付ける人とは意見が合わない。安倍氏はよく『国民の気持ちに沿って』と言うが、何が何でも改憲するという呪縛にしがみつき、国民のことは頭にない」

 -小説「あん」では、国の隔離政策に翻弄(ほんろう)されたハンセン病の元患者の女性が「私たちはこの世を観(み)るために、聞くために生まれてきた」と語る場面がある。
 「元患者たちは最近まで人権を認められていなかった。小説で書きたかったのは人間とは何かと考え続けた女性の話だ。私たちは一度の人生で夢を実現させ、名誉を得ないといけないと考えるが、本当はこの世を体験するために生まれてきた。全ての人はその意味で尊重されないといけない」

<センスが乏しい>
 -昨年、自民党の杉田水脈衆院議員が性的少数者に関し「生産性がない」と論じた投稿が問題視された。
 「生まれた以上何かを成し遂げ、地位も名誉も得ないといけないという発想だからそうした考えが出てくる。できる人が素晴らしいという見方では『あの人は歩けないから生産性がない』となるが、歩けない人なりにこの世を受け止めている。百花繚乱(りょうらん)の世の中だ。昨今の自民党は、センスの乏しい人の集団に見える」

 -自民党の改憲案について思うことは。
 「災害時に政府権限を強化する緊急事態条項は危険だ。東日本大震災で、それがなかったから救えなかった命はあっただろうか。戒厳令のような条項を設けられるのが一番怖い」

 -現行憲法の中で重要なのはどの点か。
 「『日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して…』と記した前文はわが国と、人類の理想を掲げている。国と国が利益を追求して衝突し、戦争を繰り返すのはやめようと言っている」

<軍隊否定明記を>
 -9条をどう考えるか。
 「改憲で9条が壊されるのを危惧するが、一字一句維持すべきだとは思わない。9条の理念を守るため、自衛隊を明記してもいい。最低限の武力を持つが、戦争のための軍隊ではないと明確にした方がよい」

 -東京電力福島第1原発事故後、宮城や福島を自転車で訪ねた。著書「線量計と奥の細道」で被災した住民の窮状を描写した。
 「福島ではまだ何万人も避難中だ。東電が賠償を巡る和解仲介手続き(ADR)の和解案を拒否する例もあり、住民は長い裁判に耐えないといけない。政府は有効かどうか分からない除染をするだけ。来年の東京五輪で目くらましをしようとしている。一人一人に寄り添っているとは思えない」
(聞き手は東京支社・小木曽崇)